カテゴリ:鉄道:建設・工事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2017年4月9日取材)
公開日:2017年04月20日20:45

西武新宿線中井~野方間では現在地下化工事が行われています。2年前にこの工事について現地を調査しましたが、それから2年が経過し各所で工事が着手されています。今回は構内配線が大幅に変化した沼袋駅を中心に現在の状況をお伝えします。
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西武新宿線中井~野方間地下化工事(2014年11月24日取材)(2015年4月2日作成)
西武新宿線連続立体交差事業の概要


左(1):西武新宿線の次世代通勤車として増備が進む30000系。
右(2):特急「小江戸」に使用される10000系。2007年5月4日、小平駅で撮影
西武新宿線は、JR新宿駅から北に400mほど離れた西武新宿駅を起点に、中央線の北側3kmをほぼ西に進み、小平市からは北に進路を変えて埼玉県の本川越駅に至る、全長47.5kmの西武鉄道の路線(民鉄線)です。東京都心と、東京都西部の住宅地を結ぶ通勤路線である他に、伝統的建築物が残る川越への観光路線としての性格も持っており、各駅停車・準急・急行の3種類の通勤列車に加え、座席指定制の有料特急「小江戸」が毎時1~3本運行されています。
西武新宿線の上石神井駅から東側の区間では、最短2分間隔で列車が運行されています。このため、区間内にある踏切は1時間に最大で40~50分遮断機が閉まったままとなる「開かずの踏切」と化し、地域の分断が大きな問題となっていました。この解決策として昭和末期には、西武新宿~上石神井間の現在線直下に優等列車用のトンネルを掘り、複々線化する計画が立案されました。この計画は1993(平成5)年に都市計画決定され事業費の調達も開始しましたが、直後に到来したバブル崩壊による利用者減少、安全対策による大幅な事業費増大等の問題が浮上し、2年後に中止されてしまいました。続いて1997(平成9)年には代案として、特に渋滞の激しい新井薬師前~沼袋間にある新井薬師前2号踏切(中野通り)について、道路のアンダーパス化による単独立体化が検討されました。しかし、中野通りの有名な桜並木が失われることから、周辺住民の同意が得られずまたしても計画は撤回されてしまいました。

新井薬師前~沼袋間で交差する中野通りの桜並木。
その後しばらく西武新宿線の立体交差化は進展が見られませんでしたが、2005(平成17)年に発生した東武伊勢崎線竹ノ塚駅での踏切事故を契機に交通量の多い踏切の危険性が一般市民の間でも広く認識されるようになりました。そこで中野区では、地域住民と西武新宿線の連続立体交差化に関する勉強会を設立するとともに、東京都と連携し国に対し連続立体交差事業の新規着工準備採択を求める要望を行いました。その結果、2007(平成19)年12月に西武新宿線中井~野方間について、連続立体交差事業の新規着工準備採択が認定されました。その後は環境アセスメント、都市計画決定、用地買収等の手続きが進められ、2013(平成25)年4月、ついにこの区間の連続立体交差事業が着工しました。
※Googleマップの仕様が変更になりました。地図を別ウィンドウで拡大表示したい場合は右上のフレームアイコンをクリック(タップ)してください。
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の事業区間は、中井~新井薬師前間にある第三妙正寺川橋梁付近から野方駅直前までの約2354mです。全区間地下化で計画されており、途中にある新井薬師前駅と沼袋駅についても地下化されます。これにより区間内にある7箇所の踏切が解消されます。

西武池袋線中井~野方間の縦断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/31KB)
トンネルは駅間が上下線別の単線シールド工法、駅部分が箱型の開削工法となり、駅のホームはいずれも島式で有効長は8両編成対応の170mとなります。シールドトンネルについては、コスト低減のためシールドマシンを上下線1機ずつ製作し、新井薬師前駅手前から発進したシールドマシンが、新井薬師前・沼袋の各駅を通過して野方駅手前までの駅間トンネル3区間(計6本)を一気に掘削する計画です。また、新井薬師前駅構内は急カーブとなっており、通過列車の高速化の足枷となっていることから、線路を移設してカーブ半径を大きくする計画です。(詳細後述)
総事業費は約726億円で、完成は東京オリンピックが開催される2020(平成32)年度を予定しています。
沼袋駅の構内配線が変更(2017年4月9日取材)
●中井~新井薬師前間


左(1):中井~新井薬師前間にある中井5号踏切から新井薬師前駅方向を見る。ここから先工事区間内は60km/hの徐行制限となっている。(同じ場所の2014年11月24日の様子)
右(2):新井薬師前駅ホーム端から西武新宿方面を見る。線路の位置は以前と比べて南(右)寄せられている。
中井~新井薬師前間は、第三妙正寺川橋梁を過ぎると30‰の上り勾配となり、台地上にある新井薬師前駅へ向かう線形となっています。地下線の入口はこの勾配を利用して設けられます。地下線の坑口は現在線の真下に設けられますが、線路に並行した道路が無く、地下線への切替時は大型の重機を乗り入れることができません。そこで、地上の線路を予め上下に移動できる桁に改造しておき、当日は桁をジャッキアップすることにより一晩で地下線への切替を完了させる計画です。(京王線調布駅や東急東横線代官山駅と同様)
2013年の着工後はまず線路を上下線とも北側に移動させ、空いたスペースで地下の掘削に必要な土留め壁の構築を行いました。この工事の終了後今度は線路を南側に移動させて空いたスペースで同様に土留め壁の構築が行われています。なお、地下化工事中の区間では今後軌道周辺の掘削などによりレールの位置精度を十分に確保できなくなるため、今年3月以降60km/hの徐行制限が課せられており、中井~新井薬師前間(中井5号踏切付近)と野方駅の直前にそれぞれ制限速度が書かれた徐行信号機が設置されています。
●新井薬師前駅

新井薬師前駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1400×1050px/106KB)
新井薬師前駅は、対向式ホーム2面2線で、上下線ともに本川越方のホーム端に駅舎があるレイアウトとなっています。双方のホームは跨線橋で連絡されています。駅構内は半径300mの急カーブとなっており、通過列車は下り線は45km/h、上り線は60km/hまで減速します。
地下化後は地下2層構造となり、ホームは島式1面2線に集約されます。また、通過列車のスピードアップを図るため、線路全体を北側に移設してカーブ区間を駅の前後まで延長し、半径を500mに拡大する計画です。


左(1):新井薬師前駅のホーム。地下化後は曲線緩和のため奥の上りホーム側に線路が移設される。(同じ場所の2014年11月24日の様子)
右(2):上りホーム裏の取得済みの土地に設置されている看板
新井薬師前駅では、北側の上りホーム裏で線形変更に必要な用地取得が進められています。2014年訪問時と比べるとアパートや戸建て住宅が数棟取り壊されたのが確認できる一方、まだ入居者がいるアパートもあり、用地取得に時間がかかっている模様です。本事業の完成は現時点では2020年度の予定となっていますが、今後用地取得が難航した場合この完成予定時期も変更される可能性があります。
●沼袋駅

沼袋駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/120KB)
地下化工事着工前の沼袋駅は対向式ホーム2面2線の間に通過線が2本挟まる(新幹線でよくある)レイアウトでした。地下化後の沼袋駅は地下2層構造になり、通過線側にもホームがある島式ホーム2面4線になります。地下化にあたっては用地幅に余裕が無いため、下り副本線を一時的に廃止して駅の幅を縮小し、両側に作業に必要なスペースを確保します。

沼袋駅の2017年4月2日以降の配線図。下り副本線を廃止して全ての下り列車が通過線を走行。また、上り通過線の両端にポイントを追加して上下兼用の通過線に変更した。
沼袋駅では今月2日(日)に当初計画通り下り副本線が廃止となり、その上に仮設ホームを設置して停車列車・通過列車が同じ線路上を走行するようになりました。また、引き続き当駅での下り列車の追い抜きを可能にするため、上り通過線の両端に下り線と行き来できるポイント(図中のA-B・C-D)を追加して中井駅・井荻駅と同様に上下線双方から使用できる通過線に変更しました。


左(1):連絡跨線橋から沼袋駅構内を見る。右が旧下り副本線上に新設された仮設下りホーム。
右(2):本川越寄りにある沼袋1号踏切から駅構内を見る。手前のまくらぎが並んだ部分が旧下り副本線で、その上に仮設ホームが設置されたのがわかる。
旧下り副本線上に設置された仮設ホームは、使用開始前日まで一部の支柱を除き設置ができなかったため、木材や鉄パイプを組み合わせた簡素な構造になっています。同じ理由で屋根も一切設置できなかったため、雨天の際は傘を差して電車に乗り降りする必要がある状態となっています。これについては現在突貫工事で屋根の設置が進められており、梅雨入りまでには改善される模様です。仮設ホームに覆われた旧下り線の軌道設備は9日(日)の取材時点で早くも大半が撤去されています。


左(1):西武新宿寄りにある新井薬師前3号踏切から駅構内を見る。50と書かれた黄色い標識の右側が新設されたポイントA。
右(2):ホーム端から西武新宿方面を見る。中央の信号機の右下が新設されたポイントB。右奥では掘削に向けた土留め壁の構築を行っている。
上り通過線の上下共用化に伴い、駅の両端には下り線から上り通過線に出入りできるポイントが追加されました。西武新宿寄りは半径300m前後の急カーブになっており、内方分岐器(図中A-B)を使用した特殊な線形になっています。(拡大写真)このため下り線から通過線に入線する際の制限速度は40km/hに設定されており、特にカーブ半径が小さくなっている部分には脱線防止ガードも設置されています。
カーブの南側では比較的早く用地取得が完了していたことから、地下の掘削に必要な土留め壁の構築が進められています。土留め壁の構築には小竹向原駅の連絡線新設工事や渋谷駅の再開発事業等でも使用されたCSM工法が採用されています。


左(1):上りホームから本川越方に新設されたポイントC-Dを見る。
右(2):ホームの先にある沼袋1号踏切からポイントCを見る。完全な片開きではなく、上り線側の角度が非常に大きい振分分岐になっている。
一方、本川越方は直線であるため単純に片開き分岐器を2基追加すればよいことになりますが、実際に設置されたのは直進側にも非常に大きな角度が付いた振分分岐器(図中C-D)となっています。これは分岐側といえど通過用の線路であるため、ポイントの前後までカーブを延長して急カーブによる減速を最小限に抑える狙いがあるものとみられます。

沼袋1号踏切から下り線と通過線の合流ポイントDを見る。こちらも下り線側に分岐角度が付いた振分分岐器になっている。

本川越寄りのポイントまでの過走余裕を確保するため下り仮設ホームは西武新宿寄りにずれて設置されている。
本川越方の通過線・下り線の合流部分(C-D)は従来の副本線・通過線の合流部分よりも駅内側に設置されました。下りの仮設ホームはポイントに対するオーバーランの余裕を確保するため、従来のホームより西武新宿寄りに2両分ほどずれて設置されています。

通過線は上り列車優先となっており、下り優等列車は追い抜きが無い限りホームに面した線路を通過するようになった。
今回の配線変更により通過線が上下線で共用になりましたが、上記の通り下り線から使用する場合速度制限がかかります。そのため、通過線は引き続き上り列車優先で使用しており、下り列車は追い抜きを行うときを除いてホームに面した線路を通過するようになりました。2012年に実施されたダイヤ改正以降、下りの各駅停車は始発の西武新宿駅発車後鷺ノ宮駅まで先行する列車がほとんどとなっており、沼袋駅での追い抜きは夕方以降の一部列車に限られていました。沼袋駅で下り列車が追い抜きをしている時間帯は、逆に上り列車がホームに面した線路を通過するようになっています。

沼袋1号踏切の脇にあったみずほ銀行沼袋支店は取り壊し中
沼袋駅では構内配線の変更と並行して線路に隣接した土地の取得も進められており、次々と建物が取り壊されています。沼袋1号踏切北側にあったみずほ銀行沼袋支店もその1つで、昨年9月16日よりJR高田馬場駅前にある高田馬場支店に機能を移転(統合)し、建物の取り壊しが進められています。取り壊し工事の施工業者は駅の地下化工事と同じであるため、この建物の取り壊しも西武新宿線の地下化と関連したものとみられます。
●沼袋~野方間

野方駅停車中の上り列車の前面展望。こちらも掘削準備のため土留め壁構築が進められている。
中井~新井薬師前間と同様、沼袋~野方間でも掘削に必要な土留め壁の構築が進められています。線路上には重機を乗り入れるため木材が敷かれているほか、軌道が一部移設されています。
西武新宿線では中井~野方間の地下化以外にも井荻~東伏見間など複数の区間で連続立体交差化が着手または検討されています。次回は本格的に高架化工事が始まった東村山駅についてお伝えします。
▼関連記事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2014年11月24日取材)(2015年4月2日作成)
▼参考
新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業のご案内:西武鉄道Webサイト
連続立体交差事業 | 中野区公式ホームページ
西武鉄道新宿線の連続立体交差事業に着手|東京都
西武新宿線でも連続立体化が始まった|日経BP社 ケンプラッツ
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の概要 - JREA 2014年9月号54~57ページ
※近隣区間の連続立体交差事業について
京王線・西武新宿線沿線まちづくり|杉並区公式ホームページ
西武新宿線(井荻駅~東伏見駅付近)の連続立体交差化について:練馬区公式ホームページ
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