カテゴリ:鉄道:建設・工事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2020年3月15日取材)
公開日:2020年06月10日20:43

西武新宿線中井~野方間では現在地下か工事が行われています。前回の調査から2年が経過し、沼袋~野方間では仮線切替が行われるなど工事が進んでいます。今回はこの仮線区間を中心に現在の状況をお伝えします。
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西武新宿線中井~野方間地下化工事(2018年6月16日取材)(2018年8月27日作成)
西武新宿線連続立体交差事業の概要


左(1):西武新宿線の次世代通勤車として増備が進む30000系。
右(2):特急「小江戸」に使用される10000系。2007年5月4日、小平駅で撮影
西武新宿線は、JR新宿駅から北に400mほど離れた西武新宿駅を起点に、中央線の北側3kmをほぼ西に進み、小平市からは北に進路を変えて埼玉県の本川越駅に至る、全長47.5kmの西武鉄道の路線です。東京都心と、東京都西部の住宅地を結ぶ通勤路線である他に、伝統的建築物が残る川越への観光路線としての性格も持っており、座席指定制の有料特急「小江戸」が毎時1~3本運行されています。
西武新宿線の上石神井駅から東側の区間では、最短2分間隔で列車が運行されています。このため、区間内にある踏切は1時間に最大で40~50分遮断機が閉まったままとなる「開かずの踏切」と化し、地域の分断が大きな問題となっていました。この解決策として昭和末期には、西武新宿~上石神井間の現在線直下に優等列車用のトンネルを掘り、複々線化する計画が立案されました。この計画は1993(平成5)年に都市計画決定され事業費の調達も開始しましたが、直後に到来したバブル崩壊による利用者減少、安全対策による大幅な事業費増大等の問題が浮上し、2年後に無期限で延期することが決定しました。(2019年に正式中止決定。詳細後述)続いて1997(平成9)年には代案として、特に渋滞の激しい新井薬師前~沼袋間にある新井薬師前2号踏切(中野通り)について、道路のアンダーパス化による単独立体化が検討されました。しかし、中野通りの有名な桜並木が失われることから、周辺住民の同意が得られずまたしても計画は撤回されてしまいました。

新井薬師前~沼袋間で交差する中野通りの桜並木。
その後しばらく西武新宿線の立体交差化は進展が見られませんでしたが、2005(平成17)年に発生した東武伊勢崎線竹ノ塚駅での踏切事故を契機に交通量の多い踏切の危険性が一般市民の間でも広く認識されるようになりました。そこで中野区では、地域住民と西武新宿線の連続立体交差化に関する勉強会を設立するとともに、東京都と連携し国に対し連続立体交差事業の新規着工準備採択を求める要望を行いました。その結果、2007(平成19)年12月に西武新宿線中井~野方間について、連続立体交差事業の新規着工準備採択が認定されました。その後は環境アセスメント、都市計画決定、用地買収等の手続きが進められ、2013(平成25)年4月、ついにこの区間の連続立体交差事業が着工しました。
※地図を別ウィンドウで拡大表示したい場合は右上のフレームアイコンをクリック(タップ)してください。
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の事業区間は、中井~新井薬師前間にある第三妙正寺川橋梁付近から野方駅直前までの約2354mです。全区間地下化で計画されており、途中にある新井薬師前駅と沼袋駅についても地下化されます。これにより区間内にある7箇所の踏切が解消されます。

西武池袋線中井~野方間の縦断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/31KB)
トンネルは駅間が上下線別の単線シールド工法、駅部分が箱型の開削工法となり、駅のホームはいずれも島式で有効長は8両編成対応の170mとなります。シールドトンネルについては、コスト低減のためシールドマシンを上下線1機ずつ製作し、新井薬師前駅手前から発進したシールドマシンが、新井薬師前・沼袋の各駅を通過して野方駅手前までの駅間トンネル3区間(計6本)を一気に掘削する計画です。また、新井薬師前駅構内は急カーブとなっており、通過列車の高速化の足枷となっていることから、線路を移設してカーブ半径を大きくする計画です。(詳細後述)
総事業費は約726億円で、完成は当初東京オリンピックが開催される2020(令和2)年度末を予定していました。しかし、前回(2018年)の記事でもお伝えした通り新井薬師前駅付近で用地取得が難航した等の理由により、今年4月8日に完成予定が2026(令和8)年度末へ6年延期されることが決定しました。
仮線切替が進む
着工から7年が経過し、現地では仮駅舎の建設や仮線敷設が進んでいます。今回は今年3月15日(日)に調査した現地の様子をお届けします。
●中井~新井薬師前間

新井薬師前駅の西武新宿寄りにある踏切から工事区間を見る。
地下化区間の入口は中井~新井薬師前間、妙正寺川との交差地点を過ぎた後の上り勾配から始まります。この区間は引き続き掘削に向けた土留壁の工事が行われていました。他の区間の工事が遅れているため、現時点で線路の桁構造への改造などは行われていません。
●新井薬師前駅

新井薬師前駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1400×1050px/106KB)
新井薬師前駅は、対向式ホーム2面2線で、上下線ともに本川越方のホーム端に駅舎があるレイアウトとなっています。駅構内は半径300mの急カーブとなっており、通過列車は下り線は45km/h、上り線は60km/hまで減速します。地下化後は地下2層構造となり、ホームは島式1面2線に集約されます。また、通過列車のスピードアップを図るため、線路全体を北側に移設してカーブを駅の前後まで延長し、半径を500mに拡大する計画です。

新井薬師前駅のホームから西武新宿方面を見る。重機が入れられ掘削作業が続いている。
新井薬師前駅の西武新宿寄りのホーム端は、2018年4月にホーム・線路を跨いでいた歩道橋(公道)が撤去され、トンネルの掘削が開始されました。この部分は今回も引き続き掘削作業が続いており線路脇には大型の重機が置かれています。
新井薬師前駅は本川越寄りの端に改札口と上下線のホームを結ぶ跨線橋がありました。このうち、上りホーム端の改札口(北口)と跨線橋は地下の工事に支障となることから、2018年8月にホーム中央付近に仮移転しました。
仮北口は上りホーム中央の側面にそのまま追加した構造となっており、改札口を出た先は細い生活道路に通じていました。改札口移転後はホーム上の混雑を防止するため、上りホームが若干西武新宿寄りに延長され、列車の停止位置が移動しました。仮北口自体はトンネルの建設予定地に位置していたことから使用期間はわずか1年半の短期にとどまり、今年3月26日(木)をもって閉鎖されました。
なお、地下化工事完成延期の原因にもなった仮北口隣のアパートは2019年中に取り壊しが完了しています。跡地ではトンネルの掘削に向けた杭打ちなどの工事が進められています。


左(1):本川越寄りの踏切から見た2代目仮北口と南口
右(2):下りホームから見た仮北口
3月27日(金)からは代わって着工前北口があった場所に設けられた2代目の仮北口の使用を開始しました。2代目の仮北口は地下のトンネルの工事に支障とならないよう必要最小限のサイズとなっています。改札口の先は上りホームの端にそのまま通じています。仮駅舎移転完了に伴い、こちら側でも掘削が本格化しており線路が桁構造に改造されています。
●新井薬師前~沼袋間


左(1):新井薬師前~沼袋間にある第四妙正寺川橋梁
右(2):橋梁周辺では仮設桁設置に向けた準備が開始された
新井薬師前~沼袋間はシールド工法によりトンネルを建設するため、原則として地表を切り開く工事はありません。しかし、途中で交差する第四妙正寺川橋梁の橋台基礎杭がトンネルの深度まで打ち込まれており撤去が必要となっています。橋台は川底と一体になったU字型のコンクリート構造物で、川底に打ち込まれている杭のうちトンネルに重なる部分のみをシールドマシンが直接切削して除去する計画となっています。杭の先端が除去されると橋梁の荷重を支えることができなくなるため、事前に橋梁を跨ぐ形で仮設の桁を設置し、線路はそちらで支えておく必要があります。(第四妙正寺川橋梁直下のトンネル掘削イメージ)
第四妙正寺川橋梁周辺では、今回仮設桁設置に向けた杭打ち作業が開始されていました。作業の進捗に伴い、架線柱が仮のものに取り替えられています。
●沼袋駅

沼袋駅の地下化後の断面図
※クリックで拡大(PNG/1200×400px/120KB)
地下化工事着工前の沼袋駅は対向式ホーム2面2線の間に通過線が2本挟まる(新幹線でよくある)レイアウトでした。地下化後の沼袋駅は地下2層構造になり、通過線側にもホームがある島式ホーム2面4線になります。地下化にあたっては用地幅に余裕が無いため、下り通過線を一時的に廃止して駅の幅を縮小し、両側に作業に必要なスペースを確保します。下り副本線は2017年4月に廃止されており、現在は真ん中の1線を上下線共用の通過線として使用しています。




左上(1):沼袋駅のホーム。跨線橋は撤去された。
右上(2):跨線橋の代替で新設された仮設地下通路
左下(3):上りホームに直結している仮北口
右下(4):沼袋駅仮北口駅舎
沼袋駅も新井薬師前駅と同様に上下線とも本川越寄りのホーム端に改札口、その近傍に両ホームを接続する跨線橋がありました。下りホーム端にあった南口は前回調査時に小型の仮設駅舎に切り替え済みとなっていました。
続いて同年12月12日(水)10時をもって跨線橋が使用停止となり、70m西武新宿方面に進んだ地点に新設された仮設地下通路の使用を開始しました。地下通路は幅2mほどで、ホームとの間は階段のみで接続された簡素な構造となっています。さらに2019年3月7日(木)には、上りホーム端にあった北口がホーム中央付近に仮移転しました。仮北口は新井薬師前駅と同様上りホームに直結しています。仮南口はインターホンによる遠隔監視ですが、こちらは駅員が常駐しています。使用を終了した跨線橋・旧北口は直ちに取り壊されており、現在は地下の掘削が進められています。
仮北口使用開始と同日には、南口についても初代駅舎の位置に建てられた仮駅舎に再度移転しました。2代目の仮駅舎の設備は先代のものとほぼ同様です。
●沼袋~野方間
左(1):沼袋~野方間の中央にある沼袋3号踏切付近。上下線とも仮線に切り替えられた。
右上(2):同じ踏切から西武新宿方面の新旧接続点を見る。
右下(3):仮線化に伴い、三叉路のうち1本で道路の幅が狭くなったため車両通行止めになった。
右上(2):同じ踏切から西武新宿方面の新旧接続点を見る。
右下(3):仮線化に伴い、三叉路のうち1本で道路の幅が狭くなったため車両通行止めになった。
沼袋~野方間は駅間の中央にある沼袋3号踏切までがシールド工法、そこから野方駅までが開削工法で建設されます。開削工法で建設される沼袋3号踏切以西では、南側(下り線側)に用地が拡幅され、2019年6月29日(土)に下り線、今年3月8日(日)に上り線がそれぞれ桁構造の仮線に切り替えられました。沼袋3号踏切は踏切自体が道路の三叉路も兼用しているレイアウトでしたが、踏切への進入路のうち1本が仮線の用地に転用され極端に狭くなってしまったため、一時的に車両通行止めとなっています。


左(1):野方駅手前の新旧接続地点。
右(2):野方駅のホーム端から西武新宿方面を見る。線路が全体的に右側に移動している。(同じ場所の2017年4月9日の様子)
仮線区間は野方駅の100mほど手前で終了します。この区間はカーブしているため、野方駅のホームから仮線の新旧接続地点は見えません。仮線切替に伴い線路が全体的に南側に移動しており、野方駅のホーム端から見ると線路左側の空間が以前と比べ広くなったことがわかります。
野方駅の先でも連続立体交差計画、地下急行線計画は正式中止
当初計画に比べて大幅に遅れている西武新宿線中井~野方間の地下化工事ですが、懸案だった用地取得には概ね目処が付いたため、今後は工事が進むものと予想されます。
一方、野方駅より先の野方~井荻間と井荻~西武柳沢間の2区間※、計約8kmについても2016年以降連続立体交差事業の対象区間に追加されました。このうち井荻~西武柳沢間については、高架化を前提に現在都市計画決定に向けた手続きが進行中となっています。高架化と同時に上石神井駅は現在の島式ホーム2面3線から2面4線に拡張される計画となっており、上下線とも優等列車と各駅停車の接続・追い抜きが可能となります。
一方、西武新宿線の混雑率は1999(平成11)年以降混雑緩和の目標値を下回る160%前後で推移しており、今後も大幅な増加は見込めない状況となっています。上石神井駅の2面4線化により現状の複線のままでも輸送力や速達性の向上がある程度期待できることから、長年凍結されていた西武新宿~上石神井間の地下複々線化計画については正式に中止されることになり、昨年5月から都市計画廃止の手続きが進められています。
少子高齢化により鉄道利用者が減少する中、限られた投資でいかにサービスの質をアップしていくか今後注目されます。
▼脚注
※2区間の境目にある井荻駅は西側を通る環状8号線が地下トンネルと陸橋により既に立体交差化されているため、地下化も高架化もできない。
▼関連記事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2014年11月24日取材)(2015年4月2日作成)
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西武新宿線中井~野方間地下化工事(2018年6月16日取材)(2018年8月27日作成)
▼参考
新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業のご案内 :西武鉄道Webサイト
連続立体交差事業 | 中野区公式ホームページ
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の概要 - JREA 2014年9月号54~57ページ
西武新宿線(野方駅~井荻駅付近) - 東京都建設局 連続立体交差事業(連立事業)ポータルサイト
西武新宿線(井荻駅~西武柳沢駅間) - 東京都建設局 連続立体交差事業(連立事業)ポータルサイト
現在手続き中の主な都市施設(道路、鉄道等)のパンフレット等の紹介について | 東京都都市整備局
→井荻~西武柳沢間高架化都市計画素案説明会・西武新宿~上石神井間地下化都市計画廃止についての説明会資料
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