西武新宿線中井~野方間地下化工事(2023年3月19日取材)

新井薬師前駅の地下化工事

コロナ禍で最後まで調査できていなかった鉄道関連工事レポートの3箇所目は西武新宿線地下化です。西武新宿線中井~野方間では2013年より地下化工事が進められています。前回の調査が3年が経過しましたが、工事はあまり進んでいない様子です。今回は今年3月に調査した現状についてレポートします。

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西武新宿線中井~野方間地下化工事(2020年3月15日取材)(2020年6月10日作成)

西武新宿線連続立体交差事業の変遷

西武新宿線の次世代通勤車として増備が進む30000系。 特急「小江戸」に使用される10000系
左:西武新宿線の次世代通勤車として増備が進む30000系。
右:特急「小江戸」に使用される10000系。2007年5月4日、小平駅で撮影
上:西武新宿線の次世代通勤車として増備が進む30000系。
下:特急「小江戸」に使用される10000系。2007年5月4日、小平駅で撮影

 西武新宿線は、JR新宿駅から北に400mほど離れた西武新宿駅を起点に中央線に並行して西に進み、小平市からは北に方向を変えて埼玉県の本川越駅に至る、全長47.5kmの私鉄路線です。東京都心と東京都西部の住宅地を結ぶ通勤路線である他に、伝統的建築物が残る川越への観光路線としての性格も持っており、有料特急「小江戸」が毎時1~3本運行されています。
 西武新宿線の列車本数は西武新宿駅に近づくほど多くなっており、上石神井駅から東側は最小2分間隔での運行となっています。この区間内にある踏切は、1時間に最大で40~50分遮断機が閉まったままとなる「開かずの踏切」と化し、地域の分断が大きな問題となっています。この解決策として昭和末期には、西武新宿~上石神井間の現在線直下に優等列車用のトンネルを掘り、複々線化する計画が立案されました。この地下急行線新設計画は1993(平成5)年に都市計画決定され事業費の調達も開始しましたが、直後に到来したバブル崩壊による利用者減少、安全対策による大幅な事業費増大等の問題が浮上し、無期限で計画が延期されました。以後20年以上に渡り凍結状態が続いていましたが、2019(令和元)年に正式に都市計画を廃止する手続きが行われ、名実ともに中止となりました。

西武新宿線と中野通りが交差する踏切。後述の通り現在は一部植え替えが実施されたためこの光景はしばらく見られない。
西武新宿線と中野通りが交差する踏切。後述の通り現在は一部植え替えが実施されたためこの光景はしばらく見られない。2017年4月13日撮影

 続いて1997(平成9)年には代案として、特に渋滞の激しい新井薬師前~沼袋間にある新井薬師前2号踏切(中野通り)のみをアンダーパス化する計画が立てられました。しかし、中野通りの有名な桜並木が失われることから、周辺住民の同意が得られずまたしても計画は撤回されてしまいました。
 その後しばらく西武新宿線の立体交差化は進展が見られませんでしたが、2005(平成17)年に発生した東武伊勢崎線竹ノ塚駅での踏切事故を契機に、交通量の多い踏切の危険性が一般市民の間でも広く認識されるようになりました。その結果、上記の中野通りの踏切を含む中井~野方間について、連続立体交差事業の採択が受けられることになり、2013(平成25)年4月に地下化工事に着手しました。
 また、野方~井荻間と井荻~西武柳沢間についても2016(平成28)年以降連続立体交差事業の対象区間に追加されました。後者については2021(令和3)年11月26日に高架化を前提とした都市計画決定が行われており、2023(令和5)年度中の事業認可取得に向けて手続きが進められています。

中井~野方間地下化工事の計画


※地図を別タブで拡大表示したい場合は右上のフレームアイコンをクリック(タップ)してください。

 中井~野方間連続立体交差事業では、中井~新井薬師前間にある第三妙正寺川橋梁付近から野方駅直前までの約2.4kmを地下化します。これにより区間内にある7箇所の踏切が解消されます。
 トンネルは駅間が上下線別の単線シールド工法、駅部分が箱型の開削工法となり、駅のホームはいずれも島式で有効長は8両編成対応の170mとなります。シールドトンネルについては、コスト低減のためシールドマシンを上下線1機ずつ製作し、新井薬師前駅手前から発進したシールドマシンが、新井薬師前・沼袋の各駅を通過して野方駅手前までの駅間トンネル3区間(計6本)を一気に掘削する計画です。また、新井薬師前駅構内は急カーブとなっており、通過列車の高速化の足枷となっていることから、線路の位置をずらしてカーブを緩和する計画です。(詳細後述)

西武池袋線中井~野方間の縦断面図
西武池袋線中井~野方間の縦断面図

 総事業費は約737億円で、完成は当初東京オリンピックが開催される2020(令和2)年度末を予定していました。しかし、以前の記事でもお伝えした通り新井薬師前駅付近で用地取得が難航した等の理由により、2020(令和2)年4月に完成予定が2026(令和8)年度末へ6年延期されることが決定しました。



シールドトンネルはいまだに着工できず

 2013年の着工から10年が経ちましたが、新井薬師前駅付近での用地取得の難航により工事は遅れに遅れています。ここからは今年3月19日に調査した現地の様子をレポートします。

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中井駅~
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新井薬師前駅

中井5号踏切から見た地下線入口予定地。工事桁への置き換えが進んでいる。 新井薬師前駅端から見た地下線入口。線路上には重機が入れるよう角材が敷き詰められている。
左:中井5号踏切から見た地下線入口予定地。工事桁への置き換えが進んでいる。
右:新井薬師前駅端から見た地下線入口。線路上には重機が入れるよう角材が敷き詰められている。
上:中井5号踏切から見た地下線入口予定地。工事桁への置き換えが進んでいる。
舌:新井薬師前駅端から見た地下線入口。線路上には重機が入れるよう角材が敷き詰められている。

 中井~新井薬師前間は、台地上にある新井薬師前駅に向けて上り勾配となる縦断線形になっています。地下線の入口はこの勾配を利用して設けられます。この区間は2013年の着工以降、線路の位置を左右に移動させながら掘削に必要な土留め杭の打ち込みが行われました。杭の打ち込みはほぼ終了しており、現在はその上に掘削期間中線路を支えるための仮桁(工事桁)を設置する作業が進められています。工事桁が設置された区間はバラストが抜かれているため、走行音も変化しており電車内からでも容易に判別できます。

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新井薬師前駅

新井薬師前駅の地下化後の断面図
新井薬師前駅の地下化後の断面図

 現在の新井薬師前駅は対向式ホーム2面2線で、駅構内は半径300mの急カーブとなっていることから通過列車は下り線は45km/h、上り線は60km/hまで減速します。地下化後は地下2層構造となり、ホームは島式1面2線に集約されます。地下ホームは現在よりも北側(インカーブ側)に移設し、カーブを駅の前後に延長して半径を500mまで拡大することで通過列車のスピードアップを図る計画です。

新井薬師前駅新宿寄りの仮設歩道橋から見た駅構内。掘削エリアはインカーブ側に広がっている。 トンネルに重複する上りホームは一部仮設化されており幅が狭くなっている。
左:新井薬師前駅新宿寄りの仮設歩道橋から見た駅構内。掘削エリアはインカーブ側に広がっている。
右:トンネルに重複する上りホームは一部仮設化されており幅が狭くなっている。
上:新井薬師前駅新宿寄りの仮設歩道橋から見た駅構内。掘削エリアはインカーブ側に広がっている。
下:トンネルに重複する上りホームは一部仮設化されており幅が狭くなっている。

 新井薬師前駅は上記の通りインカーブ側に用地を大幅に拡張する必要があるため、その買収に手間取り地下化工事の期間が延長される原因となりました。最後まで残っていたアパートは2019年までに解体されており、現在は全長に渡り掘削が本格化しています。現ホームと掘削エリアが重なる部分はホームが仮設化されており、ホームの幅が狭くなっています。

2代目の仮設駅舎に移転した新井薬師前駅北口 仮北口横の線路も工事桁化されている
左:2代目の仮設駅舎に移転した新井薬師前駅北口
右:仮北口横の線路も工事桁化されている
上:2代目の仮設駅舎に移転した新井薬師前駅北口
下:仮北口横の線路も工事桁化されている

 掘削エリア上にあった上りホーム本川越寄り端の改札口(北口)は2018年にホーム中央に一旦仮移転しましたが、わずか2年ほどで元の位置に近い場所に再度移転しました。再移転後の北口は掘削工事の邪魔にならないよう最小限のサイズになっています。改札口横の線路下の掘削も開始されており、線路が工事桁化されています。

新井薬師前駅南口周辺は再開発のためビルの解体が進む
新井薬師前駅南口周辺は再開発のためビルの解体が進む

 新井薬師前駅南口周辺では、西武新宿線の地下化に合わせて駅前広場の整備や古い商業ビルを建て替える再開発事業が計画されています。2020年8月には対象区域内の地権者で構成される「新井薬師前駅地区再開発協議会」が設立され、まもなく再開発準備組合へ移行し工事が開始される見通しです。これに向けて対象区域内ではビルのテナント退去や解体が相次いでおり、空き地が増えてきています。

▼参考
新井薬師前駅周辺地区のまちづくりを進めています~地域と協働したまちづくり~ | 中野区公式ホームページ

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新井薬師前駅~
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沼袋駅

新井薬師前~沼袋間にある第四妙正寺川橋梁。シールドトンネル掘削準備のため仮設の橋桁が追加された。 沼袋駅側からの遠景。線路の両側・上下線間に見える白い鋼材が追加された仮設橋桁。
左:新井薬師前~沼袋間にある第四妙正寺川橋梁。シールドトンネル掘削準備のため仮設の橋桁が追加された。
右:沼袋駅側からの遠景。線路の両側・上下線間に見える白い鋼材が追加された仮設橋桁。
上:新井薬師前~沼袋間にある第四妙正寺川橋梁。シールドトンネル掘削準備のため仮設の橋桁が追加された。
下:沼袋駅側からの遠景。線路の両側・上下線間に見える白い鋼材が追加された仮設橋桁。

 新井薬師前~沼袋間にある第四妙正寺川橋梁は、橋台と河床が一体となったU型のコンクリート護岸になっておりその下には複数本の杭が埋め込まれています。この直下にシールドトンネルを建設する際は、事前に杭を抜かずにトンネルと重なる部分のみをシールドマシンで直接削り取る計画となっています。
 杭の一部が削り取られると橋梁を支えられなくなることから、2020年以降代わりに線路を支えるための仮設橋台と橋桁を設置する工事が行われました。仮設の橋桁は短い橋梁では一般的な下路式となっています。

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沼袋駅

沼袋駅の地下化後の断面図
沼袋駅の地下化後の断面図

 着工前の沼袋駅は通過線の両側にホームのある待避線が付く構内配線(俗に言う「新幹線型」)でした。地下化後は待避線とホームの位置を入れ替え、通過線でも乗降可能な島式ホーム2面4線になる計画です。

本川越寄りの踏切から見た沼袋駅構内。この付近は掘削が進んでいない。 同じ踏切から本川越方面を見る
左:本川越寄りの踏切から見た沼袋駅構内。この付近は掘削が進んでいない。
右:同じ踏切から本川越方面を見る
上:本川越寄りの踏切から見た沼袋駅構内。この付近は掘削が進んでいない。
下:同じ踏切から本川越方面を見る

 沼袋駅周辺は狭く、工事に必要なスペースが確保できないことから、2017年に下り待避線を廃止して通過線上にホームを移設しました。同時に駅の両端にポイントを追加して上り通過線を下り線からも利用できるよう配線を変更しています。
 現在は線路を少しずつ工事桁に作り替えながら線路下を掘削する作業が進められています。掘削は西武新宿寄りの方が進んでおり、ホームもほとんどが仮設となっています。駅の南北にある改札口は2019年までに仮駅舎に移転しており今回変化はありません。

西武新宿寄りから見た沼袋駅。左のベージュの建物が移転した沼袋変電所。 上りホーム端の旧変電所と鉄塔。新変電所は地下ケーブルで受電しており、訪問時はこの鉄塔しか残っていなかった。
左:西武新宿寄りから見た沼袋駅。左のベージュの建物が移転した沼袋変電所。
右:上りホーム端の旧変電所と鉄塔。新変電所は地下ケーブルで受電しており、訪問時はこの鉄塔しか残っていなかった。
上:西武新宿寄りから見た沼袋駅。左のベージュの建物が移転した沼袋変電所。
下:上りホーム端の旧変電所と鉄塔。新変電所は地下ケーブルで受電しており、訪問時はこの鉄塔しか残っていなかった。

 沼袋駅の上りホーム新宿寄りの端には電車の走行電力を供給する沼袋変電所がありました。この変電所の建物が地下のトンネル掘削の支障になることから、2022年に下りホーム端へ移設されました。この変電所は当駅南にある東京電力パワーグリッド野方変電所から鉄塔(西武沼袋線)経由で受電していました。新しい変電所は地下ケーブル経由での受電に変更されており、東電変電所との間にあった送電線や鉄塔は一部を除き撤去されています。

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沼袋駅~
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野方駅

沼袋~野方間は引き続き工事桁の下で掘削が続いている
沼袋~野方間は引き続き工事桁の下で掘削が続いている

 沼袋~野方間は駅間の中央にある沼袋3号踏切までがシールド工法、そこから野方駅までが開削工法で建設されます。開削工法区間では2020年までに線路が南側に移設されるとともに工事桁化されています。現在は工事桁の下で掘削が進められており、踏切から桁の隙間を見ると線路の下が空洞になっているのが確認できます。
 このように西武新宿線中井~野方間の地下化工事は少しずつ進んではいるものの、メインであるシールドトンネルは未だに全く着工できない状態が続いています。現時点では2026年度末=2027年春までの完成が予定されていますが、状況次第ではさらに工期が延長となる可能性も出てきています。

▼参考
新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業 :西武鉄道Webサイト
連続立体交差事業 | 中野区公式ホームページ
西武新宿線中井~野方間連続立体交差事業の概要 - JREA 2014年9月号54~57ページ
西武新宿線(野方駅~井荻駅付近) - 東京都建設局 連続立体交差事業(連立事業)ポータルサイト
西武新宿線(井荻駅~西武柳沢駅間) - 東京都建設局 連続立体交差事業(連立事業)ポータルサイト

▼関連記事
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2014年11月24日取材)(2015年4月2日作成)
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2017年4月9日取材)(2017年4月20日作成)
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2018年6月16日取材)(2018年8月27日作成)
西武新宿線中井~野方間地下化工事(2020年3月15日取材)(2020年6月10日作成)

中野通りの桜は植え替えが進む

西武新宿線の撮影地として有名な中野通り。左側は小学校の建て替えに合わせて植え替えが行われ、以前のようなトンネル状の桜並木ではなくなった。
西武新宿線の撮影地として有名な中野通り。左側は小学校の建て替えに合わせて植え替えが行われ、以前のようなトンネル状の桜並木ではなくなった。

 西武新宿線の立体交差化に時間を要した原因の1つである中野通りの桜並木ですが、ご多分に漏れず老齢化が進んでいます。倒木の危険性もあることから、東京都では2017年度以降順次植え替えを進めています。西武新宿線の踏切付近では、中野区立新井小学校(近隣にある上高田小学校と統合の上で2020年4月に中野区立令和小学校に改称)の校舎建て替えに合わせて一部植え替えが実施されました。新木の成長にはある程度時間を要するため、しばらくの間は以前のような「桜のトンネル」を見ることはできなくなります。

▼参考
あらい地域ニュース2023年3月号 - 新井区民活動センター運営委員会(PDF/2.4MB)

おまけ:今回もスタンプラリーのフリーきっぷを活用

今年春に開催されたラブライブ!スーパースター!!コンサート記念西武線スタンプラリー
今年春に開催されたラブライブ!スーパースター!!コンサート記念西武線スタンプラリー

 2018年の工事レポートのおまけで紹介した西武線のアニメタイアップスタンプラリーと開催期間限定フリーきっぷですが、今回も同様のイベントが開催されていたため活用しました。今回は2018年にタイアップしていたラブライブ!(2018年はサンシャイン!!)の新シリーズであるラブライブ!スーパースター!!(Liella!)のコンサートがベルーナドーム(西武ドーム、旧称:メットライフドーム)で開催されるのに合わせて実施されたものです。コンサートやスタンプラリーの詳細は長くなるため今回は割愛しますが、同様のイベントはその後も繰り返し開催されています。

▼参考
『「ラブライブ!スーパースター!! Liella! 3rd LoveLive! Tour ~WE WILL!!~」開催記念 西武線スタンプラリー』を開催! :西武鉄道Webサイト
「ラブライブ!スーパースター!! Liella! 3rd LoveLive! Tour ~WE WILL!!~」開催記念 西武線スタンプラリー開催のお知らせ | ラブライブ!シリーズ Official Web Site
西武鉄道・伊豆箱根鉄道×幻日のヨハネ 合同スタンプラリー開催のお知らせ | ラブライブ!シリーズ Official Web Site
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