千駄ヶ谷駅改良工事(2016・2017年取材)

中央線千駄ヶ谷駅

2020年夏、東京で56年ぶりとなるオリンピックが開催されます。これに向けて現在東京都内の競技会場最寄りの鉄道駅で大規模改良工事が次々と進められています。今回はその中から国立競技場最寄駅であるJR中央線千駄ヶ谷駅の改良工事についてお届けします。

千駄ヶ谷駅改良工事の概要

旧国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)と明治公園。現在は更地になり2020年東京オリンピックに向け、新競技場の建設が進められている。
旧国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)と明治公園。現在は更地になり2020年東京オリンピックに向け、新競技場の建設が進められている。2008年11月23日撮影

 中央線千駄ヶ谷駅は、1904(明治37)年8月の甲武鉄道飯田町~中野間電化時に開設されました。その後何度か駅舎を改築していましたが、1964(昭和39)年に駅南側にある国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)が東京オリンピックのメイン会場となるのに合わせて高架橋を拡幅し、通常使用する島式ホームに加えて多客時に新宿・中野方面行き列車が使用する臨時ホームが設置されました。この臨時ホームは、駅舎との間が階段2箇所でしか連絡されておらず、屋根も無いことから1964年の東京オリンピック開催時に使用された以外は常時閉鎖となっており、ホーム上は広告スペースなどに活用されてきました。
 時代は流れて2013(平成25)年9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)第125次総会において、2020年夏季オリンピックの開催地が東京に決定しました。2020年東京オリンピックでは、国立競技場が再びメイン会場として使用されることになっており、旧競技場は2014年に解体され、現在跡地で新競技場の建設が進められています。(この新競技場の設計をめぐっては、当初採用されたイギリスの建築家ザハ・ハディッド氏の案において技術面・コスト面から様々な困難が明らかとなり、採用を白紙撤回したうえで日本の建築家隈研吾氏の案に変更されたのはご存知のことかと思います。)

千駄ヶ谷駅改良工事のポイント
千駄ヶ谷駅改良工事のポイント

 新しい国立競技場は収容人数が旧競技場の5万4千人から6万8千人(オリンピック終了後はトラックにも観客席を増設し8万人)へ大幅に増加することになっています。そのため、競技場最寄り駅となる千駄ヶ谷駅では増加する観客利用に対応する改修工事が必要となりました。そこで、1964年に設置された臨時ホームを活用して東京方面行きと中野方面行きのホームを分離し、混雑緩和を図ることになりました。改良工事では、ホームの分離に加えてコンコースの拡張、臨時ホームへのエスカレータ・エレベータ設置(現ホームは大型化)、さらにさらなる安全性向上のため各ホームへのホームドア設置も計画されています。臨時ホームを活用したホームの方向別分離は山手線の原宿駅でも計画されており(下写真)、隣の信濃町駅のホームドア設置と合わせた総事業費は約250億円を見込んでいます。

山手線原宿駅で毎年正月のみ使用される臨時ホーム(3番線)。今後このホームを常設化する。 都内最古の木造駅舎となった原宿駅表参道口。臨時ホーム増設化後は現駅舎の隣に新駅舎が建設されるが、この駅舎の扱いは未定である。
左(1):山手線原宿駅で毎年正月のみ使用される臨時ホーム(3番線)。今後このホームを常設化する。
右(2):都内最古の木造駅舎となった原宿駅表参道口。臨時ホーム増設化後は現駅舎の隣に新駅舎が建設されるが、この駅舎の扱いは未定である。




旧臨時ホームの取り壊しが完了

千駄ヶ谷駅改良工事は昨年春より本格的に開始されました。この工事については着手間もない昨年6月、仮駅舎切替後の10月、そして今月7日の3回に渡り調査を行っています。今回はそれらの内容をまとめて工事の進捗状況について見てまいります。

●2016年6月11日(着工直後)
改良工事着工直後の千駄ヶ谷駅臨時ホーム。この時点で既に広告看板などは撤去されていた。
改良工事着工直後の千駄ヶ谷駅臨時ホーム。この時点で既に広告看板などは撤去されていた。

 1964年の東京オリンピック時に設置された臨時ホームは、冒頭でも説明した通りオリンピック開催後は全く使用されておらず、ホーム上には大型の広告看板が並べられていました。昨年6月時点では、改良工事着手に伴いこれらの看板類は全て撤去され、跡地はホーム下を通っていた通信ケーブルなどが暫定的に迂回敷設されていました。臨時ホームということもあり、線路と反対側のホーム端は簡易的なパイプ柵しか設けられておらず、現在の水準からすると安全性も十分ではありませんでした。

千駄ヶ谷駅駅舎。右側にはベックスコーヒーなど店舗があったが、この時点で全て閉店済み。 ホームと改札口を結ぶコンコース。
コンコースの途中にあった臨時ホームへ上がる階段。 コンコース壁面に埋め込まれている完成年月表記は1964年9月。
左上(1):千駄ヶ谷駅駅舎。右側にはベックスコーヒーなど店舗があったが、この時点で全て閉店済み。
右上(2):ホームと改札口を結ぶコンコース。
左下(3):コンコースの途中にあった臨時ホームへ上がる階段。
右下(4):コンコース壁面に埋め込まれている完成年月表記は1964年9月。


 千駄ヶ谷駅の駅舎は南側(1番線側)の駅中央付近に設けられていました。駅施設として使用していない部分にはベックスコーヒーなど喫茶店が入っていましたが、改良工事に伴い昨年3月までに全ての店舗が閉店しています。この時点では内装の解体作業が進められていました。改札口とコンコースを結ぶ通路は東京寄りと新宿寄りの2箇所に設けられており、新宿寄りの通路の途中には臨時ホームへ上る階段がそのまま残されていました。コンコース壁面に埋め込まれている完成年月のプレートは「1964-9」、つまり1964年の東京オリンピック直前に完成したことを示しています。
 ちなみに、千駄ヶ谷駅周辺は昨年公開され大ヒットとなった映画「君の名は。」の舞台の1つにもなっており、旧駅舎が本編中にも登場します。


君の名は。
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●2016年10月22日(仮駅舎切替後)
年9月18日より使用が開始された千駄ヶ谷駅仮駅舎 年9月18日より使用が開始された千駄ヶ谷駅仮駅舎
2016年9月18日より使用が開始された千駄ヶ谷駅仮駅舎

 改良工事の進捗に伴い、昨年9月18日より改札口が新宿寄りに隣接して設けられた仮駅舎内に移転しました。仮駅舎はタクシー乗り場ではなく東西方向へ走る道路側に面して改札口が設けられており、旧駅舎と比較してやや狭いため自動改札機の台数も減らされています。国立競技場が建て替え中で、大規模イベントによる利用者の集中も少ないため、特に問題は無いものと思われます。

仮駅舎切替後旧駅舎は解体された
仮駅舎切替後旧駅舎は解体された

 仮駅舎移転後、旧駅舎は急ピッチで解体が進められました。旧駅舎に近接するタクシー乗り場周辺は、中央線の下をくぐって新宿御苑方面へ向かう道路も兼用しているため、現在のところ幅の縮小や交通規制などは実施されていません。

●2017年10月7日(ホーム取り壊し後)
臨時ホームは大半が取り壊され、基礎から作り直しをしている。 新宿寄りの道路を跨ぐ部分は骨組みのみ残されている。
左(1):臨時ホームは大半が取り壊され、基礎から作り直しをしている。
右(2):新宿寄りの道路を跨ぐ部分は骨組みのみ残されている。


 旧駅舎の解体後は、臨時ホームの解体が進められました。臨時ホームは、鉄骨とコンクリートの床板だけでできた簡易的な構造であるため、常設のホームとして使用するのには強度が不足しており(今回の改良工事ではホームドアも設置されるため)、全面的な改築は不可避でした。臨時ホームのうち、新宿寄りの道路を跨ぐ部分周辺の数十メートルは鉄骨のみが現在も残されていますが、この部分の扱いは不明です。取り壊し後の跡地では、早速新しいホームの基礎工事が進められており、地面に等間隔で鉄板により囲われた丸い穴が開けられているのが確認できます。

9月5日より使用停止中の新宿寄りエレベータと階段
9月5日より使用停止中の新宿寄りエレベータと階段

 現ホーム自体は改良工事後も形状などの変更はありませんが、新宿寄りにあるエレベータが定員の多い大型エレベータに取り換えられることになっています。この工事を行うため、9月5日よりエレベータと隣接していた階段が使用停止となっています。エレベータ使用停止に伴い、車椅子で千駄ヶ谷駅を乗降する際はエスカレータに内蔵された車椅子リフト機能を使用しています。

▼脚注
※:エスカレータのステップ数段を同じ高さにして車椅子を乗せるための平面を作る機能。


JR東日本では千駄ヶ谷駅の他に有楽町駅、新橋駅(継続中)、浜松町駅、日暮里駅、大井町駅、新木場駅など東京オリンピック会場近隣となる駅で機能向上のための改良工事を計画しています。これらの各駅の状況についても機会を見て調査したいと思います。

▼参考
駅改良の工事計画について - JR東日本(2016年6月8日発表)(PDF/595KB)
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