渋谷駅再開発事業の概要 - 渋谷駅再開発2018(1)
公開日:2018年05月05日04:13

東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転が開始されて今年で5年となりました。直通運転開始に伴い廃止された渋谷駅地上の旧東横線ホーム跡地では再開発が進んでいます。2014年以降この渋谷駅再開発について調査してきた内容を数回にわけてお届けします。1回目の今回は再開発事業と高層ビル・地下貯水槽についてです。
▼関連記事
東横線・副都心線直通開始後の渋谷駅(2013年5~12月取材まとめ)(2013年12月25日作成)
東急東横線地下化と渋谷駅再開発の概要




渋谷ヒカリエ9階での渋谷駅再開発定点観察。1枚目(左上)が2013年5月6日、2枚目(右上)が2014年3月16日、3枚目(左下)が2016年5月15日、4枚目(右下)が2017年8月20日。この間銀座線を走る車両は01系から1000系に全て置き換えられた。
2013年3月16日、東急東横線と東京メトロ副都心線は相互直通運転を開始しました。直通開始前の東横線渋谷駅は東口バスターミナル付近の地上に行き止まり式の4面4線のホームがありました。直通運転開始に伴いこの地上ホームは廃止され、2008年に開業済みだった地下5階の副都心線渋谷駅に乗り入れるようになりました。廃止された地上ホームは数ヶ月間イベントスペースとして利用されましたが、その後は隣接していた東急百貨店東横店東館(2013年3月閉店)とともに取り壊され、再開発がスタートしました。
この再開発は東横線ホーム跡地のみならず、渋谷駅全体を対象としています。渋谷駅は昭和初期に完成した駅ビルに増改築を重ねた非常に複雑な構造になっており、JR・地下鉄・私鉄合計8路線が乗り入れる駅としては利用者にとって不親切極まりない設備となっています。東横線地上ホーム廃止により生まれた空間を利用し、これらの複雑な施設を再配置します。具体的には以下のような計画となっています。

渋谷駅再開発マップ
(1)再開発ビルの建設
東横線地上ホーム跡地および東急百貨店東横店3棟(東館・西館・南館)を全て取り壊し、跡地に新たに最大高さ47階建てのビル3棟を建設する。(渋谷駅街区)また、国道246号線を挟んだ南側の東横線跡地にも35階建ての高層ビルを建設する。(渋谷駅南街区)さらに、南口周辺の東急プラザなど古い商業施設についても建て替え、これらのビルを空中回廊で連結し駅内外での回遊性を高める。
(2)渋谷川移設と雨水貯水槽の建設
渋谷はその名の通り谷底に街が作られている。このため、集中豪雨の際は周辺から雨水が集まりしばしば浸水被害が発生している。この対策として、東急百貨店東館跡地に地下貯水槽(調整池)を建設する。
(3)東京メトロ銀座線渋谷駅の移設
東急百貨店東館から西館の建物内にある東京メトロ銀座線渋谷駅を表参道寄りの東口バスターミナル上空へ移設する。移設に合わせてホームの形状を1番線が行き止まりとなった島式1面2線に変更する。
(4)JR山手線・湘南新宿ラインのホーム並列化・島式化
JR埼京線・湘南新宿ラインのホームはかつて存在した貨物駅の跡地を利用して増設されたため、山手線ホームから南へ300m離れている。この状態を解消するため、東横線ホーム跡地を利用して南行線路を東に移設して上下線間隔を広げ、山手線ホームと同一位置に移設する。また、山手線ホームについても線形を変更し、カーブ半径を大きくするとともに外回り・内回り一体の島式ホームに変更する。
再開発の工事は既存の施設の取り壊しが終わった部分から開始されており、今年秋以降完成する建物が出てくる予定です。ここから先は2014年以降調査してきた各施設の建設状況について見てまいります。
東横線ホーム跡地はIT産業の集積地へ

渋谷川の下流から見た建設中の渋谷ストリーム。2017年8月20日撮影
東横線地上ホームの取り壊しは2015年夏以降本格的に行われました。国道246号線より南側では高架橋の解体が順調に進み、2016年初めより渋谷駅南街区となる高層ビルの建設が開始されました。この高層ビルは地上35階・地下4階建てで、同年秋にはビルの名称が「渋谷ストリーム(SHIBUYA STREAM)」となることが発表されました。低層階は商業施設や東急ホテルズのビジネスホテル「渋谷ストリームエクセルホテル東急」が入居します。14階以上は全てオフィスフロアとなり、ネット検索大手のGoogle日本法人が全てのフロアを貸し切ることになっています。ビルの前を通る渋谷川は一部フタをした上で、並木橋までの600mに渡り水辺を生かした遊歩道が整備されます。渋谷ストリームは今年秋に完成予定となっており、現在は建物の外観はほぼ完成し内装工事に移っています。




渋谷警察署前歩道橋から渋谷ストリームの着工前後を見たところ。1枚目(左上)が2006年5月4日、2枚目(右上)が2016年7月29日、3枚目(左下)が2016年11月5日、4枚目(右下)が2017年8月20日。渋谷川左側の雑居ビル群も取り壊され、副都心線渋谷駅新16番出入口が建設された。
渋谷ストリームから渋谷川を挟んだ対岸は以前雑居ビルなどがありました。この雑居ビル群は2015年に取り壊され、跡地に副都心線渋谷駅に通じる新しい出入口が建設されました。これはすぐ前の明治通り上にあった仮設の16番出入口を移設するためのもので、エスカレータとエレベータも完備されています。また、この新しい出入口前の渋谷警察署前交差点では歩道橋の架け替えが進められています。この新16番出入口のエスカレータ・エレベータは2階まで通じており、将来は歩道橋に接続され渋谷ストリームの2階へ直接出入りできる2番目のアーバンコアになります。昨年12月2日には地下から地上1階までの部分が使用開始となり、従来の仮設出入口は閉鎖されました。



左上(1):昨年12月にオープンした副都心線渋谷駅新16番出入口。
右上(2):新16番出入口の内部。エスカレータやエレベータは2階まで通じている。
下(3):渋谷警察署前交差点で進行中の歩道橋架け替え工事。新16番出入口や渋谷スクランブルスクエアと接続され空中回廊となる。
なお、この歩道橋はそのままJR山手線を跨いで南口の再開発ビルへ通じる空中回廊の一部にもなります。歩道橋の架け替えは現在も続いており、深夜を中心に頻繁に交通規制が実施されています。


左(1):東横線ホームの残骸の撤去が完了した渋谷スクランブルスクエア予定地。2016年7月29日撮影(同じ場所の2013年12月1日の様子)
右(2):着々と建設が進む渋谷スクランブルスクエア。2017年8月20日撮影
東横線渋谷駅のホームや改札口の解体は直下にJR渋谷駅南改札へ通じる通路があったため、通路を何度か迂回させながらの工事となり2015年末まで時間を要しました。このエリアも現在は駅街区東棟(Ⅰ期)となる高層ビルの建設が開始されています。東棟は地上47階・地下7階建てで渋谷駅の再開発ビルの中で最大規模になります。東棟屋上となる高さ230m地点には展望台が設けられ、渋谷の新たな観光名所となることが期待されています。昨年8月にはビルの名称が「渋谷スクランブルスクエア(SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE)」となることが発表されました。渋谷スクランブルスクエアには、スマホゲーム「モンスターストライク」やSNSの老舗「mixi」を展開するミクシィの本社や「Amebaブログ」「AbemaTV」などを展開するサイバーエージェントの広告事業部が入居することになっています。渋谷スクランブルスクエアは2019年度に完成予定です。
渋谷川移設と雨水貯水槽の建設

新流路への切替工事に伴い旧流路が姿を現した渋谷川。2014年3月16日撮影
渋谷はその地名が示すとおり渋谷川が形成した谷底に街が作られています。渋谷川は新宿御苑や明治神宮を源流とした二級河川で、渋谷駅東口バスターミナル南側までは昭和30年代に全線が暗渠(地下)化の上、下水道幹線に転用されています。東急百貨店東横店東館はこの渋谷川の上に建っており、地下階が存在しないなど建物の構造に特徴がありました。再開発にあたっては渋谷スクランブルスクエア予定地の中央を横切る渋谷川が工事の支障となるため、2015年に予定地外側を通る新しい流路に付け替えられました。
なお、移設後の新流路もビルの下に一部食い込んでいる区間があります。現在の河川法では河川の上に建物を建てることは原則として認められていません。この規制を回避するため、再開発着手に先立つ2009年に法規上河川のまま残されていた宮益橋から渋谷駅東口ロータリー南端の暗渠終点までの250mを下水道に変更する都市計画変更手続きが実施されました。これにより渋谷川の上に合法的に再開発ビルを建てることができるようになっています。


左(1):渋谷駅東口地下の雨水貯水槽の断面図
右(2):雨水の集水システムのイメージ。集水ますから下水道までの間に堰を設けたマンホールを設け、降雨量が50mm/hを上回り堰を乗り越えた雨水を貯水槽へ導く。
雨水貯水槽は渋谷川の新流路の下、地下4階相当の深さに設けられます。集水対象は宮益坂を中心とした400m四方のエリアで、降雨量75mm/hまで浸水被害を発生させないことを目標としました。既存の下水道は降雨量50mm/hを前提に設計されていることから、新設される雨水貯水槽は不足する25mm/h分を受け止めることとし、容量は4000m3確保することとしました。雨水の集水は既存の下水管の途中に堰を設けた特殊なマンホールを増設し、大雨で堰を乗り越えた分の水を貯水槽に導く方式としました。貯水槽に貯められた水は雨が収まったのを確認後、48時間以内に明治通り地下を通る古川幹線下水道へポンプで放流されます。
貯水槽上部の空間(地下2階)は副都心線・半蔵門線渋谷駅に通じる地下広場になります。地下広場の端には再開発ビルへ通じるエスカレータを収めた3番目のアーバンコアが設けられます。

掘削工事が近接する副都心線渋谷駅にはトンネルの変形を観測するセンサーが取り付けられている。
渋谷スクランブルスクエア・雨水貯水槽・東口地下広場の工事は、営業中の副都心線・東横線渋谷駅に近接(一部は完全に接して)行われています。いずれの工事も大規模な地下掘削を伴うため、副都心線渋谷駅6番線の壁面にはトンネルが変形していないか観測するためのセンサーが取り付けられています。センサーはワイヤーの伸縮によるものと、光を用いて2点間の距離を測定するものの2種類が使用されています。
次回は、このゴールデンウィーク中3日間列車を運休して工事が行われた東京メトロ銀座線の渋谷駅移設についてお伝えします。
▼参考
渋谷再開発情報サイト|東急電鉄
SHIBUYA FUTURE|渋谷駅街区土地区画整理事業
SHIBUYA FUTURE Second Stage 渋谷の壮大な未来の計画 第2章 |渋谷文化プロジェクト
渋谷駅周辺地区における再開発事業の進捗について 2017年春開業の渋谷宮下町計画、2018年秋開業の渋谷駅南街区について計画詳細を発表
渋谷駅街区開発計画の施設名称が「渋谷スクランブルスクエア」に決定 オフィス・商業施設のリーシングを開始
渋谷駅の再開発にあわせた浸水対策 - 新都市2015年11月号
渋谷駅街区土地区画整理事業に合わせた雨水貯留槽の整備 - 下水道協会誌2016年6月号
渋谷駅東口駅前再開発に伴う渋谷川移設工事について - 地下空間シンポジウム論文・報告集第22巻(2017年1月) 土木学会
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東横線渋谷~代官山間地下化工事(2013年・2014年春取材まとめ[2])(2014年4月18日作成)
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