相鉄線鶴ヶ峰駅地下化工事(2023年7月30日取材)

鶴ヶ峰駅に到着する相鉄21000系

星川駅高架化の完成や新横浜線の開業の興奮が覚めやらぬ相鉄線ですが、間髪入れずに次の大工事が始まっています。2022年6月に相鉄と横浜市は相鉄本線鶴ヶ峰駅付近の地下化工事に着手することを発表しました。それから1年が経過し、現地では工事に使用するヤードの整備といった準備作業が進んでいます。今回は事業の概要と現地を歩いて調査した準備状況についてレポートします。

横浜市内の踏切安全対策

 横浜市では2006年以降数年おきに市内に存在する踏切の安全性向上に向けた計画を策定しています。2015年は事故の発生状況や市民からの要望を勘案して、以下の10箇所の踏切が実施計画としてリストアップされました。

JR東海道線鶴見~新子安間にある生見尾(うみお)踏切。3路線の線路と交差していることに加え、一部線路間隔が開いていることから、「中洲」であると勘違いした歩行者や自動車が踏切内に留まり、列車が緊急停止するトラブルが多発している。死亡事故も発生しており、横浜市では歩道橋改良による廃止を目指しているが、周辺住民の反対により計画は進んでいない。
JR東海道線鶴見~新子安間にある生見尾(うみお)踏切。3路線の線路と交差していることに加え、一部線路間隔が開いていることから、「中洲」であると勘違いした歩行者や自動車が踏切内に留まり、列車が緊急停止するトラブルが多発している。死亡事故も発生しており、横浜市では歩道橋改良による廃止を目指しているが、周辺住民の反対により計画は進んでいない。

●歩行者対策(踏切拡幅・歩道橋新設・エレベーター追加等)
江ヶ崎踏切(JR南武線尻手~新鶴見信号場間、通称「尻手短絡線」)
八丁畷第1踏切(京急本線八丁畷~鶴見市場間)
古市場踏切(JR東海道線川崎~鶴見間)
上星川7号踏切(相鉄本線上星川~西谷間)
杉田第2踏切(京急本線杉田~京急富岡間)
能見台第2踏切(京急本線能見台~金沢文庫間)
生見尾うみお踏切(JR東海道線鶴見~新子安間)
樹源寺踏切(JR東海道線保土ヶ谷~東戸塚間)

●道路側を立体化する個所
並木踏切(JR東海道線・京浜東北線川崎~鶴見間)
川和踏切(JR横浜線中山駅構内)

また、より抜本的な対策を推進するため、以下の5区間については鉄道側を高架化・地下化する「連続立体交差事業」の候補とされました。

①京急本線鶴見市場駅周辺
②JR南武線矢向駅周辺(隣接する矢向~向河原間では川崎市が事業主体の高架化が計画中)
③東急東横線妙蓮寺駅~白楽駅周辺
④相鉄本線鶴ヶ峰駅周辺
⑤相鉄本線瀬谷駅周辺

この5か所のうち、相鉄線鶴ヶ峰駅周辺は特に重要度が高いことからこの区間の立体化を優先的に進めていくことになりました。

相鉄線鶴ヶ峰駅地下化工事の概要

鶴ヶ峰駅。二俣川寄りの端に橋上駅舎がある。 鶴ヶ峰駅西側にある水道道の踏切
左:鶴ヶ峰駅。二俣川寄りの端に橋上駅舎がある。
右:鶴ヶ峰駅西側にある水道道の踏切
上:鶴ヶ峰駅。二俣川寄りの端に橋上駅舎がある。
下:鶴ヶ峰駅西側にある水道道の踏切

 相模鉄道(以下、相鉄)線は横浜市中心部にある横浜駅から、二俣川・大和を経由して海老名に至る本線、二俣川から分岐して湘南台に至るいずみ野線、西谷から分岐して新横浜を経由し東京都心方面へ通じる新横浜線の3つの路線があります。今回地下化工事が開始された鶴ヶ峰駅はこれら3つの路線全てを束ねている重要な区間となっています。
 鶴ヶ峰駅周辺は、旭区役所があるなど二俣川駅と並ぶ旭区の重要な拠点となっています。この鶴ヶ峰駅周辺の相鉄線上には水道道(市道今宿401号線・鶴ヶ峰1号踏切)をはじめとする10箇所の踏切が存在し、交通渋滞や地域の分断が問題となっています。上記の通りここは相鉄線のほとんどの列車が走行する区間であるため、列車本数が多い朝ラッシュ時は特に状況が深刻であり、1時間当たり40分以上遮断機が閉まったままとなる「開かずの踏切」となっているものも存在します。
 横浜市では前記した踏切安全計画の策定後、2年間かけて鶴ヶ峰駅周辺の現地測量などを行い、立体化の構造について検討を行いました。その結果、地下化の方が公害低減や、跡地の利用がしやすいなどメリットが多いことが判明したため、この区間は地下化で計画を進めていくことに決定しました。事業費は2021年度の公共事業再評価によると約784億円となっています。

鶴ヶ峰駅地下化区間の位置と縦断面イメージ。鶴ヶ峰駅は現行駅舎を避けるため北側に駅が移動する。
鶴ヶ峰駅地下化区間の位置と縦断面イメージ。鶴ヶ峰駅は現行駅舎を避けるため北側に駅が移動する。
※国土地理院Webサイト「地理院地図Vector(試験公開)」で公開されている「標準地図」「空中写真」合成レイヤーに加筆

※クリック/タップで拡大(1891×1121px/419KB)

 地下化後の線路は概ね現在線をトレースするルートとなりますが、鶴ヶ峰駅については現行の駅舎に手を加えることによるコストや工期の増大を避けるため、駅全体を北側に数十メートル移動させます。両端のトンネル出入口と鶴ヶ峰駅部分は地上から掘り下げる開削工法(箱型トンネル)、その間の部分は複線サイズのシールドトンネルになります。
 なお、鶴ヶ峰駅のすぐ横で交差する水道道路は、その名の通り地下に津久井湖から横浜市内各地へ上水を供給する水道管が埋設されています。相鉄線のトンネルはそのさらに下に建設されるため、鶴ヶ峰駅のホームは地表からおよそ30mの深さとなる予定です。



ヤード整備が本格化

 鶴ヶ峰駅地下化工事は今年春から工事中使用するヤード(作業基地)整備などの準備作業が開始されました。7月末に調査した現地の状況を西谷駅側から順にレポートします。

西谷駅引上線終端北側で整備が進む工事ヤード
西谷駅引上線終端北側で整備が進む工事ヤード

 工事の起点は新横浜線開業に向けて整備された西谷駅引上線の端です。工事ヤード①はこの引上線終端の北側に設けられます。この場所は元々地元建設会社の資材置き場や、斎場の駐車場として利用されていた区画で、7月調査時は更地化が完了し防護柵の支柱を立てている最中でした。

相鉄線の上を跨ぐ西川島橋から鶴ヶ峰駅方向を見る。9月以降は右側の森林を切り崩して工事ヤード②へ繋がる仮設道路を造成中。 西谷3号踏切から西谷駅方向を見る。右側の黄色い重機が工事ヤード③
左:相鉄線の上を跨ぐ西川島橋から鶴ヶ峰駅方向を見る。9月以降は右側の森林を切り崩して工事ヤード②へ繋がる仮設道路を造成中。
右:西谷3号踏切から西谷駅方向を見る。右側の黄色い重機が工事ヤード③
上:相鉄線の上を跨ぐ西川島橋から鶴ヶ峰駅方向を見る。9月以降は右側の森林を切り崩して工事ヤード②へ繋がる仮設道路を造成中。
下:西谷3号踏切から西谷駅方向を見る。右側の黄色い重機が工事ヤード③

 その先線路は台地の中を掘割で走行しています。この掘割の途中から線路は地下に入ります。この地下線入口の両側にも工事ヤードが設けられます。7月訪問時点では南側の西谷変電所横の工事ヤード③の整備が進んでおり、線路上には重機が入線できるよう木材が敷かれ、掘削用の大型重機の搬入も済んでいました。
 9月以降は北側の工事ヤード②の整備も開始されています。工事ヤード②へ出入りする仮設道路は掘割の上に渡されている西川島橋の横から分岐する予定になっており、その整備も開始されています。道路が狭いため、工事車両の走行ルートには誘導員を配置し、ダンプカーには衝突防止AIを搭載する予定です。

西谷3号踏切。ここから地下線はシールドトンネルに変わる。 西谷3号踏切付近を走行中の下り列車前面展望。このカーブから地下線は北側へ外れていく。
左:西谷3号踏切。ここから地下線はシールドトンネルに変わる。
右:西谷3号踏切付近を走行中の下り列車前面展望。このカーブから地下線は北側へ外れていく。
上:西谷3号踏切。ここから地下線はシールドトンネルに変わる。
下:西谷3号踏切付近を走行中の下り列車前面展望。このカーブから地下線は北側へ外れていく。

 地形が台地から低地に戻る途中には西谷3号踏切があります。この踏切から地下線はシールドトンネルに変わります。工期短縮のため、ここから発進したシールドマシンは二俣川駅手前まで一気にトンネルを掘削し、その後鶴ヶ峰駅部分のみシールドトンネルを壊してホームを作る手順となる予定です。踏切の先のカーブから地下線は現在線から外れ、北側を並行する帷子川かたびらがわの旧流路を活用した親水公園へ入っていきます。

▼脚注
※鶴ヶ峰付近の帷子川は洪水被害低減のため昭和50年代から平成初期にかけて改修が行われた。鶴ヶ峰付近では蛇行していた流路を直線化しており、旧流路の一部が親水公園になっている。

鶴ヶ峰駅のトンネル建設手順。現在線北側にシールドトンネルを掘削した後その一部を壊してホームを作る。
相鉄線の撮影スポットとして有名な鶴ヶ峰駅の横浜寄り。試運転中の東急3020系は9月から相鉄線内での営業運転を開始した。
同じ場所から向きを変えて横浜方面を見る。地下駅は後ろの帷子川親水公園の下にできる。
左:鶴ヶ峰駅のトンネル建設手順。現在線北側にシールドトンネルを掘削した後その一部を壊してホームを作る。
右上:相鉄線の撮影スポットとして有名な鶴ヶ峰駅の横浜寄り。試運転中の東急3020系は9月から相鉄線内での営業運転を開始した。
右下:同じ場所から向きを変えて横浜方面を見る。地下駅は後ろの帷子川親水公園の下にできる。
上:鶴ヶ峰駅のトンネル建設手順。現在線北側にシールドトンネルを掘削した後その一部を壊してホームを作る。
中:相鉄線の撮影スポットとして有名な鶴ヶ峰駅の横浜寄り。試運転中の東急3020系は9月から相鉄線内での営業運転を開始した。
下:同じ場所から向きを変えて横浜方面を見る。地下駅は後ろの帷子川親水公園の下にできる。

 西谷3号踏切先のS字カーブが終わると鶴ヶ峰駅です。地下化後の駅は3層構造で、ホームは現在と同じ対向式となる予定です。前記した通りこの部分は先に掘削が完了したシールドトンネルの一部を壊して駅を作ります。
 地下駅予定地は帷子川親水公園と駅北口の駐輪場にまたがっています。双方の境目は川で削られてできた鋭い崖になっており、そのままでは重機や車両の乗り入れが困難です。そのため工事期間中は高低差を埋める巨大な仮設構台が設置される予定です。なお、親水公園内には様々な動植物が生育しているため、工事期間中も流水は維持し、完成後は伐採した木を現状に近くなるよう復元する予定です。

鶴ヶ峰駅裏手にあった市営第4駐輪場は地下化工事本格化のため4月に閉鎖となった。 鶴ヶ峰駅北口からやや離れたところにあるバスターミナル。今立っている歩道を工事車両の走行ルートに改修する。
左:鶴ヶ峰駅裏手にあった市営第4駐輪場は地下化工事本格化のため4月に閉鎖となった。
右:鶴ヶ峰駅北口からやや離れたところにあるバスターミナル。今立っている歩道を工事車両の走行ルートに改修する。
上:鶴ヶ峰駅裏手にあった市営第4駐輪場は地下化工事本格化のため4月に閉鎖となった。
下:鶴ヶ峰駅北口からやや離れたところにあるバスターミナル。今立っている歩道を工事車両の走行ルートに改修する。

 鶴ヶ峰駅付近の工事は今年4月から開始されており、北口裏手にあった駐輪場が閉鎖されました。これに伴い北口から帷子川親水公園方向への通り抜けができなくなっています。
 工事車両は東側(西谷駅側)に道路が無いため、北口のやや離れたところにあるバスターミナル入口の歩道を車道に改修し、そこを走行ルートとして使用する予定です。4月以降は走行ルートとなる駅前の道路で舗装を強化する工事が進められています。

鶴ヶ峰~二俣川のほぼ中央にある鶴ヶ峰4・5号踏切。左の踏切の先にはタカナシの工場があり、トラックの往来が激しいためガードマンが常駐している。
鶴ヶ峰~二俣川のほぼ中央にある鶴ヶ峰4・5号踏切。左の踏切の先にはタカナシの工場があり、トラックの往来が激しいためガードマンが常駐している。

 鶴ヶ峰駅を過ぎると地下線は現在線と同じルートに戻ります。ここからしばらくはシールドトンネルになるため地上での工事はありません。駅間中央の鶴ヶ峰4・5号踏切は変形五差路の中にある珍しい踏切となっています。踏切の東側には高梨乳業の本社兼工場もあり、大型トラックが頻繁に出入りすることから誘導員が常駐しています。

鶴ヶ峰8号踏切から鶴ヶ峰駅方向を見る。シールドトンネルの到達立坑は奥に見える旭警察署のやや手前に設けられる予定で、線路上には掘削準備のため木材が敷かれている。
鶴ヶ峰8号踏切から鶴ヶ峰駅方向を見る。シールドトンネルの到達立坑は奥に見える旭警察署のやや手前に設けられる予定で、線路上には掘削準備のため木材が敷かれている。

 シールドトンネルの到達地点は旭警察署裏手に設けられます。こちらも線路上に木材が敷かれ始めています。線路沿いにまとまった土地が確保できないため、工事ヤードは細かく分散して設けられる予定になっています。

保土ヶ谷バイパス下にある鶴ヶ峰9号踏切。地下線に支障する水道管の移設工事中。
保土ヶ谷バイパス下にある鶴ヶ峰9号踏切。地下線に支障する水道管の移設工事中。

 保土ヶ谷バイパスをくぐると上下線間に二俣川駅の引上線が入ってきます。地下線の出口は保土ヶ谷バイパスの真下に設けられる予定になっており、西谷駅の新横浜線トンネル出入り口のように引上線の外側に地下線から出てきた本線がせり上がってくる構造になります。
 保土ヶ谷バイパスの下には水道管が埋設されています。これが地下線と重なるため現在移設が進められています。

保土ヶ谷バイパスの先にある本村跨線人道橋は撤去が進む。 二俣川駅ホームから横浜方面を見る。10000系は下り線を走行中。その横の引上線が使用停止となり、終端標識(黄色い丸)が設置されている。
左:保土ヶ谷バイパスの先にある本村跨線人道橋は撤去が進む。
右:二俣川駅ホームから横浜方面を見る。10000系は下り線を走行中。その横の引上線が使用停止となり、終端標識(黄色い丸)が設置されている。
上:保土ヶ谷バイパスの先にある本村跨線人道橋は撤去が進む。
下:二俣川駅ホームから横浜方面を見る。10000系は下り線を走行中。その横の引上線が使用停止となり、終端標識(黄色い丸)が設置されている。

 この地下線出口部分には線路を横断するための歩道橋(本村跨線人道橋)がありました。地下化後は擁壁ができる分用地を拡幅する必要があり、現在の歩道橋はそのまま残すことができません。そのため今年7月3日(月)に歩道橋は使用停止となり撤去が進められています。
 また2本あった引上線のうち下り線側(5番線)についても今年3月ダイヤ改正以降使用停止となっており、10月に入ってから撤去が開始されました。引上線側の入換信号機も撤去されている一方、二俣川駅ホーム端の入換信号機は現在も5番線の表示灯が残ったままとなっています。工事完了後に撤去した留置線が再設置されるかは不明です。

完成は10年後

 鶴ヶ峰駅地下化工事の完成は10年後の2033年度の予定です。新横浜線の開業により今まで見たこともなかった行先の電車が入り乱れるようになったこの区間ですが、今後はその車窓の変化にも注目です。

▼参考
踏切を減らす(連続立体交差事業) | 未来への取り組み | 相鉄グループ
相模鉄道本線(鶴ヶ峰駅付近)連続立体交差事業 横浜市
連続立体交差事業相模鉄道本線(鶴ヶ峰駅付近)令和3年度再評価(令和4年度予算)
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