カテゴリ:鉄道:建設・工事
東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事(2013年11月17日取材)
公開日:2014年06月13日23:15

東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)竹ノ塚駅では現在高架化工事が行われています。2年前の着工時にこの事業に関する解説をお届けしましたが、その後実際に工事が開始されましたので昨年11月に現地を再調査してまいりました。半年ほど経ってしまいましたが、この工事の様子についてお伝えします。
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竹ノ塚駅高架化工事着手までの経緯
竹ノ塚駅は東武伊勢崎線(愛称:東武スカイツリーライン)の起点である浅草駅から13駅目(13.4km)にあります。竹ノ塚駅を含む伊勢崎線北千住~北越谷間は複々線となっており、当駅には内側線を走る普通列車のみが停車します。浅草寄りには東京メトロ日比谷線の車両基地(千住検車区竹ノ塚分室)が併設されており、緩行線には当駅始発・終着列車がラッシュ時を中心に数本設定されています。
伊勢崎線の複々線区間のうち、西新井駅と竹ノ塚駅は地上に線路が敷設されています。これは西新井駅に工場(2004年廃止)が併設されていたことや、日比谷線の車両基地があるためです。このため、竹ノ塚駅の前後には現在に至るまで踏切が2か所残り、複々線の列車本数の多さ故にいずれも1時間当たり最大で58分遮断器が閉まったままとなる「開かずの踏切」と化しています。この踏切を巡っては昭和時代から沿線住民より繰り返し高架化を求める陳情がなされており、一例として2001(平成13)年には約5万4千名の署名が足立区に提出されています。しかし、竹ノ塚駅には前記した日比谷線の車両基地があることに加え、交差する2か所の踏切がいずれも区道だったため、国の連続立体交差事業の採択基準に合致せず、自治体や鉄道事業者の事業費負担が高額になってしまうため、着工が困難となっていました。


左(1):西新井~竹ノ塚間にある東京メトロ千住検車区竹ノ塚分室。
右(2):竹ノ塚駅の浅草寄りにある伊勢崎線第37号踏切(赤山街道)。2012年4月1日撮影
この竹ノ塚駅前後にある踏切は踏切脇に係員が常駐し、人力で遮断器を開閉する手動式となっていました。これは遮断器を自動化すると複々線の線路を次々と通過していく列車に対応できず、遮断時間が延びてしまうと考えられていたためです。しかしこれが仇となり2005年3月に浅草寄りの踏切において係員が誤って列車接近中に遮断機を上げてしまい、踏切に入った通行人が列車にはねられ4人が死傷する重大事故が発生してしまいました。これを受けて東武鉄道では踏切への警備員の配置、遮断器の自動化、エレベータ付き歩道橋の新設などの安全対策を即座に実施しました。
一方、地元ではこの事故を契機として高架化の機運が一気に高まり、事故直後からわずか5ヶ月間で約21万7千名に上る署名が集まりました。この数字は足立区の人口の実に1/3に相当するもので、事故が地域社会に与えた衝撃の大きさを物語っています。これを受けて足立区では、国に連続立体交差事業の採択基準拡大を要請し、事故翌年の2006年に事業主体の人口20万人以上の都市・特別区への拡大と、歩行者が多い生活道路の踏切(歩行者ボトルネック踏切)への対象拡大が実現しました。
こうして竹ノ塚駅の高架化が制度的にも可能となり、2012年に東武鉄道と足立区の間で高架化工事の施工協定が締結され実際に工事が開始されることになりました。区が連続立体交差事業の事業主体になるのは東京23区では初のことです。完成は2020(平成32)年度の予定で、総工費は約544億となっており、足立区と国が約456億円、東武鉄道が約88億円を分担して拠出します。
仮線化工事が開始(2013年11月17日取材)

高架化後の竹ノ塚駅の構造 ※クリックで拡大
高架化される区間は西新井寄りの補助260号線(栗六陸橋)付近から谷塚寄りの高架橋までの全長1.7km(都市計画変更区間は3.1km)です。竹ノ塚駅構内は現在と同じく外側が急行線、内側に緩行線と島式ホーム1面2線が設置されます。浅草方にある日比谷線の車両基地付近は上り線が地上、下り線が高架となり、入出庫線は下り線の高架をアンダーパスして平面交差することなく緩行線に出入りできる配線になります。このため、竹ノ塚駅構内の現在下り急行線と下り緩行線の間にある日比谷線の入出庫待機線は廃止されます。また、春日部方には現在と同様竹ノ塚駅止まりの列車の引上線が設置されますが、本数は1本減の2本となる予定です。
高架下は駅舎の他、狭隘なバスターミナルの拡張や線路を横断する道路(補助261号線)の新設スペースに充てられます。この補助261号線は、伊勢崎線が地上を走ることを前提に線路との交差部分は陸橋として都市計画決定されていたため、高架化に合わせて地上式へ計画が変更されています。
以下、昨年11月に調査した各箇所の様子を見てまいります。なお、毎度のことになりますが調査から時間が経過しているため、現状と異なる箇所があります。ご了承ください。
●浅草方
浅草方は保守用側線や日比谷線の車両基地の敷地を利用して下り線の高架橋を建設します。工事の手順は以下の通りです。

浅草方の切替順序 ※クリックで拡大(1200×250px)
①着工前
②日比谷線の入出庫線を西側に移設し、元の場所に下り急行線の高架橋を建設し、高架化する。
③地上の下り急行線跡地に下り緩行線の高架橋を建設する。
(この際高架橋の建設下り緩行線と上り緩行線を高架下に一時移設する)
④下り緩行線を高架化し、上り緩行線と日比谷線入出庫線を高架橋の東側に戻す。

浅草方の上り線側の側道から日比谷線の車両基地を見る。画面左端では側道の移設工事が行われている。
浅草方の工事は日比谷線の車両基地を仮線用地として使用する計画ですが、これだけでは若干工事に必要なスペースが不足するため、並行する区道を線路から若干離れた場所に移設することになっています。竹ノ塚駅から浅草方に400mほど進んだ線路の東側にあるUR(都市機構)竹の塚第二団地付近では11月訪問時に道路の移設作業が開始されており、道路と団地を仕切っていた鉄柵が撤去されるなどの変化がありました。


左(1):浅草方にある歩道橋から西新井駅方向を見る。画面右端で側道の移設が行われている。
右(2):同じ歩道橋から竹ノ塚駅方向を見る。手前にあった保守用側線は撤去された。
竹ノ塚駅に近付くと日比谷線の車両基地が無くなり、西側にも道路が並行するようになります。この付近でも道路を線路から離れた位置に移設する工事が行われていました。また、下り急行線の外側には保守用機材を留置する側線が1線設置されていましたが、この側線も11月訪問時には撤去されていました。側線を撤去した分架線を支えるビームが短縮されており、側線の線路跡に鉄骨の仮設支柱を建ててビームを支えています。今後はこの空いたスペースに下り急行線の高架橋が建設される予定です。

浅草方の架線の新旧移行部分。新しい架線はき電吊架式になっている。
高架化工事の着工に伴い、竹ノ塚駅周辺は架線が交換され、シンプルカテナリからき電吊架方式に変化しました。これは工事の際架線の取り外しや移設を頻繁に行う必要があるため、部品点数を減らし、作業に要する時間を短縮する目的があるものと考えられます。
●竹ノ塚駅(本体)
竹ノ塚駅は現在橋上駅舎となっており、そのままでは高架橋が建設できません。そのため高架化先立ち線路の下に仮設の駅舎を建設し、橋上駅舎を取り壊したうえで線路やホームを西側に順次移設しながら高架橋を建設します。手順は以下の通りです。

竹ノ塚駅本体の切替順序 ※クリックで拡大(1500×210px)
①着工前
②橋上駅舎の西側を一部短縮し、跡地に下り急行線の高架橋を建設して高架化する。
③緩行線・上り急行線とホームを下り線側に移設する。
同時に地下仮駅舎の使用を開始し、橋上駅舎は撤去する。
④東側の空いたスペースに上り急行線の高架橋を建設し、高架化する。
⑤緩行線のホームを建設し、高架化する。
上記のうち、②の段階では橋上駅舎の機能を残しつつ下り急行線の高架橋を建設する必要があります。このため、下り急行線の高架橋は現在の地上の線路よりもさらに西側にずれた位置に建設され、完成後も緩行線ホームとは独立した構造となる予定です。


左(1):竹ノ塚駅構内の下り線。一面に木材が敷かれたが、線路の撤去や移設はまだ行われていない。
右(2):下り急行線の脇に置かれていた伸縮継目。
11月訪問時点では竹ノ塚駅構内は、下り線の線路内に工事車両が乗り入れられるよう一面に木材が敷き詰められていました。この時点ではまだ線路の使用停止・撤去・移設などは一切行われていませんでしたが、下り急行線の脇には組み立て済みのレールが置かれており、そう遠くないうちに軌道本体にも手が加えられることが予想されます。


左(1):竹ノ塚駅西口。階段の前にあった店舗が取り壊された。
右(2):西口のバス停は浅草寄りを通る赤山街道内に移設された。(訪問時は工事中)
西口側は11月訪問時点で橋上駅舎の階段脇にあった店舗が取り壊されていたほか、駅舎の真下にあった東武バスの定期券売り場の移転が告知されるなど(12月14日(土)から東口に移転)、下り急行線の高架橋建設の準備が進められていました。さらに高架橋の工事開始に伴い、西口のバスターミナルが使用できなくなるため、浅草寄りを通る赤山街道内にバス停を移設する工事が進められていました。赤山街道の新しいバス停は今年4月14日(月)から使用を開始しており、これまで使用していた旧ターミナルは閉鎖されました。旧ターミナルは大型バスが向きを変えられるだけの十分なスペースが無かったため、一番奥にターンテーブル(下記動画参照)が設置されていましたが、これもターミナル閉鎖に伴い廃止となりました。
竹ノ塚駅西口のバス用ターンテーブル - YouTube 音量注意

竹ノ塚駅東口の駅ビルはテナントが全て退去しており、北側半分は取り壊しが始まっていた。
一方、東口は3階建ての駅ビルがありましたが、11月訪問時点では駅ビル内のテナントは全て退去しており、北側半分は防音板で覆われ取り壊し作業が開始されていました。今後は取り壊した北側半分の跡地から線路下に向かって地下通路を建設し、橋上駅舎の代替となる地下仮駅舎を建設するものと思われます。
●春日部方
春日部方は緩行線の上下線間に竹ノ塚駅止まりの緩行線の列車が使用する引上線(折り返し線)が3本設置されていました。引上線の両側を通る本線は谷塚駅方面の高架橋に向かって上り勾配となっており、盛土や高さの低いコンクリートの高架橋になっていました。竹ノ塚駅の高架化後、引上線は駅と同じ高さに高架化される一方、本線は現在の高架橋を一部流用するため、本線の方が低い場所を通る形に変わります。手順は以下の通りです。

春日部方の切替順序 ※クリックで拡大(1200×200px)
①着工前
②引上線1本を使用停止とし、その跡地に下り緩行線、急行線を順次移設する。
③下り急行線の跡地に新しい高架橋を建設する。
また、引上線をさらに1本使用停止とし、跡地に上り線を①と同様に順次移設する。
④上り急行線の跡地に新しい高架橋を建設する。また、引上線と上り緩行線を下り線側に移設する。
⑤緩行線上下線・引上線の高架橋を建設し、高架化する。
高架橋の建設は引上線を一部使用停止し、その跡地に本線を一時移設した上で行われることになっており、現在の線路敷の中で工事を完結させる予定です。特に⑤の段階は使用中の線路に囲まれた空間で高架橋を建設することになるため、かなり難易度の高い工事になることが予想されます。

春日部方の踏切から見た引上線。下り線に接する1本が撤去されている。
11月訪問時点では3本なった引上線のうち、下り緩行線に接する1本が撤去されていました。また、引上線と下り緩行線を仕切るように設置されていた高架橋の高欄も撤去されており、代わりに金属の棒で組んだ柵が設置されました。今後は撤去された引上線の跡地に下り緩行線の仮線が敷設されることになっており、途中にある閉塞信号機は仮線への切り替えを見越して引上線側に大きく離れた位置に移設されています。


左(1):竹ノ塚駅ホーム端から見た引上線。
右(2):下り緩行線の前面展望。右に見える閉塞信号機は下り緩行線の仮線化を見越した位置に移設されている。
2012年の施工協定締結から2年が経ち、竹ノ塚駅では高架化工事着手に向けた準備が本格化しています。4月30日に発表された東武鉄道の2014年度設備投資計画によると、今年度は下り急行線の高架橋本体工事を開始する予定となっています。
9年前に発生した痛ましい事故は竹ノ塚駅以外の開かずの踏切を抱える地区にも大きな影響を与えており、東京都内だけでも西武新宿線など連続立体交差事業に着手、もしくは全く新たに検討を始めるところが相次いでいます。実際に完成するまでにはまだ長い年月がかかることが予想されますが、今後の動向に注目してまいりたいと思います。
▼関連記事
東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事、いよいよ着工へ(2012年4月3日作成)
▼参考
足立区/鉄道立体と関連まちづくり
東武スカイツリーライン「竹ノ塚駅」付近の連続立体交差事業(高架化)に着手します - 東武鉄道ニュースリリース(PDF/632KB)
2014年度の鉄道事業設備投資計画について - 東武鉄道ニュースリリース(PDF/1.5MB)
4/14「竹の塚駅西口停留所」高架化工事に伴う移設・[竹04][竹05]時刻変更について 新着情報|東武バスOn-Line
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