東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事(2014年12月28日取材)

竹ノ塚駅に到着する東部10000系電車と建設中の下り急行線高架橋

東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)竹ノ塚駅で踏切事故が発生して今年で10年目になります。現地では現在踏切解消のための高架化工事が進行しています。昨年12月末になりますが、その工事について再調査を行ってまいりました。今回は、調査から半年が経過してしまったため、先月に調査したデータもプラスしながら、工事全体の状況を見てまいります。

▼関連記事
東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事(2013年11月17日取材)(2014年6月13日作成)

竹ノ塚駅高架化工事着手までの経緯



 竹ノ塚駅は、東武伊勢崎線(愛称:東武スカイツリーライン)の起点である浅草駅から13駅目(13.4km)にあります。竹ノ塚駅を含む伊勢崎線北千住~北越谷間は複々線となっており、当駅には内側線を走る普通列車のみが停車します。浅草寄りには東京メトロ日比谷線の車両基地(千住検車区竹ノ塚分室)が併設されており、緩行線には当駅始発・終着列車がラッシュ時を中心に設定されています。
 伊勢崎線の複々線区間のうち、西新井駅と竹ノ塚駅は地上に線路が敷設されています。これは西新井駅に工場(2004年廃止)が併設されていたことや、日比谷線の車両基地があるためです。このため、竹ノ塚駅の前後には現在に至るまで踏切が2か所残り、複々線の列車本数の多さ故にいずれも1時間当たり最大で58分遮断器が閉まったままとなる「開かずの踏切」と化しています。この踏切を巡っては、昭和時代から沿線住民より繰り返し高架化を求める陳情がなされており、一例として2001(平成13)年には約5万4千名の署名が足立区に提出されています。しかし、竹ノ塚駅には前記した日比谷線の車両基地があることに加え、2か所の踏切がいずれも足立区道だったため、国の連続立体交差事業の採択基準に合致せず、自治体や鉄道事業者の事業費負担が高額になってしまうため、着工が困難となっていました。

▼脚注
※当時の連続立体交差事業の採択基準は事業主体が都道府県または政令指定都市の場合に限られていた。


竹ノ塚駅浅草方にある伊勢崎線第37号踏切。10年前に死傷事故が発生した踏切。 春日部方にある伊勢崎線第38号踏切。
左(1):竹ノ塚駅浅草方にある伊勢崎線第37号踏切。10年前に死傷事故が発生した踏切。2013年11月17日撮影
右(2):春日部方にある伊勢崎線第38号踏切。2012年4月1日撮影


 この竹ノ塚駅前後にある踏切は踏切脇に係員が、人力で遮断機を開閉する手動式となっていました。これは遮断機を自動化すると複々線を次々と通過していく列車に対応できず、遮断時間が延びてしまうと考えられていたためです。しかし、これが仇となり2005年3月15日、浅草寄りの踏切において係員が誤って列車接近中に遮断機を上げてしまい、踏切に入った通行人が列車にはねられ4人が死傷する重大事故が発生してしまいました。これを受けて東武鉄道では踏切への警備員の配置、遮断器の自動化、エレベータ付き歩道橋の新設などの安全対策を即座に実施しました。
 一方、地元ではこの事故を契機として高架化の機運が一気に高まり、事故直後からわずか5ヶ月間で約21万7千名に上る署名が集まりました。この数字は足立区の人口の実に1/3に相当するもので、事故が地域社会に与えた衝撃の大きさを物語っています。これを受けて足立区では、国に連続立体交差事業の採択基準拡大を要請し、事故翌年の2006年に事業主体の人口20万人以上の都市・特別区への拡大と、歩行者が多い生活道路の踏切(歩行者ボトルネック踏切)への対象拡大が実現しました。
 こうして竹ノ塚駅の高架化が制度的にも可能となり、2012年に東武鉄道と足立区の間で高架化工事の施工協定が締結され、実際に工事が開始されました。区が連続立体交差事業の事業主体になるのは、東京23区では初のことです。完成は2020(平成32)年度の予定で、総工費は約544億となっており、足立区と国が約456億円、東武鉄道が約88億円を分担して拠出します。

下り急行線の高架橋建設が本格化(2014年12月28日取材)



 高架化される区間は、西新井寄りの補助260号線(栗六陸橋)付近から、谷塚寄りの高架橋までの全長1.7km(都市計画変更区間は3.1km)です。竹ノ塚駅構内は現在と同じく外側が急行線、内側に緩行線と島式ホーム1面2線が設置されます。浅草方にある日比谷線の車両基地付近は上り線が地上、下り線が高架となり、入出庫線は下り線をアンダーパスして平面交差することなく緩行線に出入りできる配線になります。このため、竹ノ塚駅構内にある日比谷線の入出庫待機線は廃止されます。また、春日部方には現在と同様竹ノ塚駅止まりの列車の引上線が設置されますが、本数は1本減の2本となる予定です。
 高架下は駅舎の他、狭隘なバスターミナルの拡張や線路を横断する道路(補助261号線)の新設スペースに充てられます。この補助261号線は、伊勢崎線が地上を走ることを前提に線路との交差部分は陸橋として都市計画決定されていたため、高架化に合わせて地上式へ計画が変更されています。
 2012年の着工から3年が経過し、現地では高架橋の本体工事が本格化しています。今回は昨年12月28日に調査した現地の様子を中心に、一部先月25日に調査した内容も追加してお届けします。(昨年調査箇所は現状と大きく異なっている可能性があります。ご了承ください。)

●浅草方(日比谷線車両基地付近)
浅草方(日比谷線車両基地付近)の高架化手順
浅草方(日比谷線車両基地付近)の高架化手順

 浅草方にある栗六陸橋から日比谷線車両基地の終端にかけては、日比谷線の車両基地の留置線を一部移設・使用停止とし、下り急行線→下り緩行線の順に1線ずつ高架橋を建設していきます。この際、留置線1本の使用停止のみでは高架橋の建設に必要なスペースが不足するため、上り急行線脇の区道を数メートル後退させ、4本ある本線全てを東側に移設します。

栗六陸橋から仮線移設区間を見る。4本全てが右(東)側に移設されている。また、左側の日比谷線の車両基地も本線に接する1本が使用停止となっている。 仮線移設区間の終端付近。区道を竹の塚第二団地側にセットバックさせ、仮線用地を捻出した
左(1):栗六陸橋から仮線移設区間を見る。4本全てが右(東)側に移設されている。また、左側の日比谷線の車両基地も本線に接する1本が使用停止となっている。
右(2):仮線移設区間の終端付近。区道を竹の塚第二団地側にセットバックさせ、仮線用地を捻出した。


 日比谷線車両基地付近では、2014年6月より4カ月かけて上り急行線から順に4本ある本線を全て東側に移設する工事が行われました。これに伴い、東側を並行していた区道も隣接するUR(都市再生機構)竹の塚第二団地内へセットバックさせており、その部分は道路端の柵が新しいものに交換されています。仮線移設区間は区道と線路の間には騒音防止のため高い柵が設置されており、道路から走行中の電車は見えません。一方、日比谷線の車両基地内も本線に隣接する留置線1本が使用停止となっており、工事用の資材が仮置きされています。

仮線移設区間の終端付近では下り急行線用の高架橋が建ち始めた。
仮線移設区間の終端付近では下り急行線用の高架橋が建ち始めた。

 仮線移設区間は200mほどで終了します。その先では日比谷線の車両基地入出庫線を一部東側に移設し、西側を通る区道を都営アパート側に移設し、空いた用地に下り急行線の高架橋を建設する工事が開始されています。この付近の高架橋は一般的な柱・梁で構成される鉄筋コンクリート構造で建設されています。

竹ノ塚駅手前にある線路横断用の歩道橋。12月2日より西側の階段が移設され、短縮された。 歩道橋西側の階段移設部分。
歩道橋から浅草方面を見る。この付近は一部鋼製の高架橋になる。 歩道橋から春日部方面を見る。手前が移設された新しい階段。右奥が竹ノ塚駅。
左上(1):竹ノ塚駅手前にある線路横断用の歩道橋。12月2日より西側の階段が移設され、短縮された。
右上(2):歩道橋西側の階段移設部分。
左下(3):歩道橋から浅草方面を見る。この付近は一部鋼製の高架橋になる。
右下(4):歩道橋から春日部方面を見る。手前が移設された新しい階段。右奥が竹ノ塚駅。
同じ場所の2013年11月17日の様子


 栗六陸橋から竹ノ塚駅までの間は踏切が無いため、歩行者が線路を横断できるよう歩道橋が1箇所設けられています。この歩道橋のうち、西側の階段が下り急行線の高架橋建設の支障となるため、昨年12月2日に高架橋に重ならない位置に階段が移設されました。これによりわずかながら歩道橋の長さが短縮されています。
 高架橋の建設は歩道橋のギリギリまで行われています。この付近では一部鋼製の橋脚が使用されているのが確認できます。高架橋の建設開始に伴い、日比谷線の車両基地入出庫線は線形が一部変更されており、下り急行線と交差する部分はこれまで片開き分岐器で一旦合流した後再度分岐していた配線から、可動K字クロッシングと呼ばれる特殊なポイントを用いた単純な交差に縮小されています。このクロッシングポイントは構造が複雑で弱いため、下り急行線は90km/hの速度制限が新たに課せられています。

春日部方面を見た別角度の写真。左下の入出庫線と下り急行線の交差部分は単純な交差に改められた。
春日部方面を見た別角度の写真。左下の入出庫線と下り急行線の交差部分は単純な交差に改められた。



●竹ノ塚駅(本体付近)
竹ノ塚駅構内の高架化手順
竹ノ塚駅構内の高架化手順

 竹ノ塚駅は橋上駅舎であるため、そのままでは高架橋を建設することができません。そこで、まず橋上駅舎を一部縮小した後、駅舎にかからない離れた位置に下り急行線の高架橋を建設します。並行して線路下に仮設の地下駅舎を建設し、橋上駅舎を撤去します。最後に地上の線路を移設しながら高架橋を建設していきます。このため、完成後も下り急行線はそれ以外の線路とはやや離れたところを通る形になります。

10年前に事故があった踏切付近でも高架橋の建設が本格化している。
10年前に事故があった踏切付近でも高架橋の建設が本格化している。

 竹ノ塚駅構内でも、橋上駅舎に支障しない範囲で下り急行線の高架橋建設が本格化しています。10年前に死傷事故があった浅草寄りの踏切付近でも高架橋の本体が建ち始めています。この付近は線路内外に様々な構造物があり、高架橋の柱を建てられる位置に制約があるため、鋼製の構造が全面的に採用されています。

竹ノ塚駅西口。橋上駅舎が若干西側(手前側)に延長され、階段が移設された。 西口側で進む高架橋の建設。
左(1):竹ノ塚駅西口。橋上駅舎が若干西側(手前側)に延長され、階段が移設された。
右(2):西口側で進む高架橋の建設。


 現行の橋上駅舎は、線路の東西両側に出入口があります。このうち西口では、高架橋の建設に既存の階段が支障となったため、通路を若干延長して隣に仮設の階段を新設しています。今後も高架橋建設の進捗に従い、橋上駅舎は形状が変化する予定です。

東口は駅舎の北半分が取り壊され、仮設地下駅舎の建設準備が進む。 東口は駅舎の北半分が取り壊され、仮設地下駅舎の建設準備が進む。
東口は駅舎の北半分が取り壊され、仮設地下駅舎の建設準備が進む。

一方、東口は3階建の駅ビルに直結しています。駅ビルは2013年秋に北半分が取り壊されており、跡地では仮設の地下駅舎建設に向けた準備が進んでいます。 なお、残った駅ビルの3階には今年4月より高架化工事に関する情報コーナーが新設されています。

●春日部方
春日部方の高架化手順
春日部方の高架化手順

 春日部方は、上下線の間に竹ノ塚駅止まりの列車が使用する引上線が3本あるため、この一部を使用停止にして高架橋を建設します。この部分は現在も高さの低い高架橋になっており、その一部を流用することから、本線より引上線の方が高い位置に設置されることになります。高架橋の建設は営業中の線路に挟まれた空間で行う必要があり、さらに高架橋への切替の際は地上から高架橋へ短時間でで線路を持ち上げる箇所があるなど、難易度の高い工事となっています。

春日部寄りの踏切から引上線を見る。引上線が1本使用停止となり、下り緩行線に転用されている。
春日部寄りの踏切から引上線を見る。引上線が1本使用停止となり、下り緩行線に転用されている。

 3本なる引上線のうち、下り緩行線に隣接する1本は前回取材時(2013年11月)には使用が停止されていました。その後、跡地には盛り土をしたうえで下り緩行線の仮線を敷設する工事が行われ、昨年7月に切替が行われました。竹ノ塚駅の先の下り緩行線は引上線が直進側となっており、下り緩行線はシーサスクロッシングの分岐側を通過して春日部方面へ進出していましたが、この仮線切替により直進側へ変更となり速度制限が無くなりました。

春日部寄りでも始まった高架橋の建設。 仮線に切り替えられた下り急行線。奥では旧軌道の撤去が続く。
左(1):春日部寄りでも始まった高架橋の建設。
右(2):仮線に切り替えられた下り急行線。奥では旧軌道の撤去が続く。


 下り緩行線の仮線化後は、跡地に下り急行線の仮線を敷設する工事が行われ、今年1月15日に切替が実施されました。現在は旧軌道の撤去工事が続けられるとともに、跡地で下り急行線用の高架橋の建設が開始されました。

草加駅引上線新設工事

草加駅でのホーム改修工事のお知らせポスター
草加駅でのホーム改修工事のお知らせポスター

 竹ノ塚駅の引上線は今後工事の過程で一時的に1本まで減少する予定です。このままでは現行の途中駅折り返しダイヤが維持できないため、代替として2つ先の草加駅に引上線を設置することになりました。草加駅では今年4月下旬よりこの引上げ線設置のための工事が開始されています。

草加駅引上線設置工事の概要図
草加駅引上線設置工事の概要図

 草加駅は島式ホーム2面4線で、急行線ホームの外側には上下線とも通過線が設置されています。引上線は春日部寄りの緩行線上下線の間にに8両編成の有効長で設置されますが、高架橋の拡幅等はせずに現状の用地内で設置します。そのため、ホームの春日部寄り67mを幅2mに渡り撤去し、引上線の分岐器設置スペースを捻出します。このままでは緩行線のホーム有効長が不足するため、浅草寄りの乗務員詰所の階段を改修し、幅3mのホームを23m新設します。

▼脚注
※撤去されるホームの長さに対して延長されるホームの長さが短いが、緩行線で運行される列車は最大8両編成であるため問題は無い。


草加駅浅草寄りで行われている乗務員詰所の改修とホーム延長工事。 同春日部寄りの引上線設置予定地。新しい架線柱を建てる工事が行われている。
左(1):草加駅浅草寄りで行われている乗務員詰所の改修とホーム延長工事。
右(2):同春日部寄りの引上線設置予定地。新しい架線柱を建てる工事が行われている。


 草加駅では、現在のところ浅草寄りの乗務員詰所の階段をホーム延長の支障にならない場所に付け替える工事と、延長されるホームの台座を構築する工事が行われています。上下線ともホームの先には信号機がありますが、ホームを延長すると信号機までの余裕距離が無くなってしまうため、今後移設が行われるものと思われます。
 一方、春日部寄りでは現在のところ新しい軌道の敷設や移設は行われていません。引上線敷設にあたっては、架線を支える支柱を新しい軌道に重ならない位置に移設する必要があるため、新しい支柱を建てる工事が行われています。新しい架線柱はトラスではなく、最近主流の鋼管柱になっており、列車内からでも容易に判別できます。

 竹ノ塚駅での踏切事故が発生してから今年で10年が経ちました。今年3月にも事故があった踏切では踏切内に進入した軽自動車が通過中の列車と接触する事故が発生するなど、引き続き高架化が急務となっています。1日も早い踏切の解消を期待します。

▼参考
足立区/鉄道立体と関連まちづくり
足立区/[鉄道高架化工事]平成26年度までのSNSまとめ
交通網・都市基盤整備調査特別委員会 | 足立区議会
→平成26年11月11日の資料に草加駅引上線の図面
東武スカイツリーライン「竹ノ塚駅」付近の連続立体交差事業(高架化)に着手します - 東武鉄道ニュースリリース(PDF/632KB)
2015年度の鉄道事業設備投資計画について - 東武鉄道ニュースリリース(PDF/1405KB)

▼関連記事
東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事、いよいよ着工へ(2012年4月3日作成)
東武伊勢崎線竹ノ塚駅高架化工事(2013年11月17日取材)(2014年6月13日作成)
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