カテゴリ:鉄道:その他

横須賀線東京トンネルコンクリート剥落事故に関する考察

横須賀線・総武快速線E217系・E235系

昨日2月22日(木)午前3時頃、横須賀線東京トンネル新橋~品川間で壁面のコンクリートが剥がれ落ちているのが発見され、始発から15時頃までおよそ10時間に渡り運転を見合わせるというトラブルがありました。当サイトは創立以来このトンネルに関する調査を続けていますが、改めて東京トンネルの現状と今回の事故について現地調査や各種文献などを元に考察してみようと思います。
※記事作成時点での情報に基づく内容です。今後新たな情報がわかり次第修正する場合があります。

横須賀線東京トンネルについておさらい

東海道線113系 横須賀線113系(房総路線転用後)
東海道線・横須賀線を走っていた113系電車。両路線は東京~大船間で複線の線路を共有していたが、増発が限界に達したため東京トンネル建設や貨物線の転用により1980年に走行ルートが分離された。

 横須賀線・総武快速線東京駅周辺のトンネルについては、以前連載した「建設史から読み解く首都圏の地下鉄道」シリーズにてレポートしていますが、記事数が膨大であり全部をお読みいただくには時間を要するため、ここではトンネルについて簡単に説明することとします。
 横須賀線東京~品川間にある東京トンネルは、東京~大船間の横須賀線・東海道線の線路分離計画(通称「SM分離」)の一環として1976(昭和51)年10月1日に開通しました。先立つ1972(昭和47)年には総武快速線東京~両国間の総武トンネルも開通しており、東京駅を通り抜けて横須賀線と総武線の直通運転が可能になりました。

▼脚注
列車番号のサフィックスが横須賀線は「S」、東海道線は「M」だったことからこのように呼ばれている。

横須賀線東京トンネルと関連施設の位置
横須賀線東京トンネルと関連施設の位置
国土交通省オルソ化空中写真ダウンロードシステム(現在は国土璃地理院地図にサービス継承)の空中写真に加筆


 横須賀線東京トンネルは、地上の東海道線とはやや離れた場所に作られており、今回事故が発生した新橋~品川間ではおおむね東海道線よりも南側(海側)を通過しています。トンネルは地下およそ30mという深い場所に作られたため、地中をモグラのように掘り進むことができるシールド工法をメインに使いながらトンネルが作られました。しかし、当時のシールド工法はまだ発展途上だったこと、海沿いで軟弱な地盤ということもあって工事は極めて難航し、何度も地表が陥没する事故を引き起こすこととなりました。

東京都心の地下水位の変化。1970年代の地下水くみ上げ規制後急激に回復している。 東京トンネルのシールドトンネルで実施された二次覆工。セグメント表面に防水シートを張り、その上にパネルを取り付け内部にモルタルを充填した。
左:東京都心の地下水位の変化。1970年代の地下水くみ上げ規制後急激に回復している。
右:東京トンネルのシールドトンネルで実施された二次覆工。セグメント表面に防水シートを張り、その上にパネルを取り付け内部にモルタルを充填した。(工事中の様子
上:東京都心の地下水位の変化。1970年代の地下水くみ上げ規制後急激に回復している。
下:東京トンネルのシールドトンネルで実施された二次覆工。セグメント表面に防水シートを張り、その上にパネルを取り付け内部にモルタルを充填した。(工事中の様子

 さらに、同時期に行われた地盤沈下対策の地下水くみ上げ規制により地下水位が急激に上昇し、トンネル全体を地下水が覆うようになりました。建設中から地下水位が高かった浜松町以西の区間ではこの対策としてトンネル内にもう1枚コンクリート壁を設ける二次覆工が行われていましたが、それ以外の区間では地下水位が低いことを前提にシールドトンネル本体(セグメント)のみとされました。これらのセグメントは現在の水準と比べ防水が不完全であり、完成直後にしてトンネル内では大量の漏水が発生するようになりました。海が近いためこの漏水には塩分が含まれており、レールをはじめとするトンネル内の鉄製品が腐食し、トンネル本体にも損傷の危険性が出てきたため、完成直後から残りの区間についても二次覆工を行うこととなり、2012(平成24)年に対象区間全てで工事が完了しました。
 また、東京駅についてはその巨大さゆえにトンネル底面に地下水による浮力が作用し、床面の損傷や地下駅全体が浮き上がる危険性があることが判明しました。そのため1999(平成11)年より2年間かけて床下に合計130本のアンカーを打ち込み、深部の硬い地層に地下駅全体を「係留」しています。



今回事故が起きた場所は換気所

横須賀線東京トンネルの縦断面図
横須賀線東京トンネルの縦断面図

 このようにシールドトンネル部分については地下水・塩害対策がおおむね完了し、比較的良好な状態を回復しています。しかし東京トンネルにはこれ以外にも新橋駅や駅間にある換気所といった構造が異なるトンネルがいくつか存在します。
 新橋~品川間では、建設時にシールドマシンを搬入した竪穴(立坑たてこうが4箇所あり、それらはいずれも現在蓋をしたうえで上に送風機を置き換気口として利用されています。今回のコンクリート剥落事故の発生場所は、各種ニュースにおいて

①起きたのはトンネル内にある換気口(NHKほか)
②港区芝浦付近(テレ朝news


とされていることから、新橋駅側から見て2番目にある「芝浦換気所」もしくは「田町排煙所」だとみられます。

芝浦一丁目にある東京トンネル芝浦換気所・変電所。立坑本体は手前の旧海岸通りの下にある。 藻塩橋近くの新芝運河沿いにある田町排煙所。非常用のため建物のサイズは小さい。
左:芝浦一丁目にある東京トンネル芝浦換気所・変電所。立坑本体は手前の旧海岸通りの下にある。
右:藻塩橋近くの新芝運河沿いにある田町排煙所。非常用のため建物のサイズは小さい。
上:芝浦一丁目にある東京トンネル芝浦換気所・変電所。立坑本体は手前の旧海岸通りの下にある。
下:藻塩橋近くの新芝運河沿いにある田町排煙所。非常用のため建物のサイズは小さい。

 芝浦換気所は並走している山手線浜松町~田町間のほぼ中央の南側、芝浦一丁目交差点付近にあります。立坑本体は旧海岸通りの下にあり、その横には換気用の送風機や電車の走行電力を供給する芝浦変電所を収めたビルがあります。換気は常時行っており、線路天井部分には気流を整え換気性能を上げるためコンクリート製の巨大なノズルが設けられています。
 一方田町排煙所は新芝運河に架かる藻塩橋西側にあります。1972年に発生した北陸本線北陸トンネルでの火災事故を受けて急遽存続が決まった立坑で、トンネル内火災時のみ送風機を運転して排煙を行います。こちらは一旦完成していたシールドトンネルに追加で排煙口を設けたため、天井に直接換気口が開いている単純な構造となっています。

東京トンネル汐留換気所の断面。線路上部には換気効率を高めるためのノズルが設けられている。
東京トンネル汐留換気所の断面。線路上部には換気効率を高めるためのノズルが設けられている。
注:芝浦換気所は地下7層構造であり深さや途中階の寸法は大幅に異なる。


 シールドトンネルと同様、これらの換気口内でも地下水位上昇や老朽化により漏水が発生しています。運河が近いことからこれらの漏水には塩分が含まれており、コンクリート構造物の劣化が進んでいます。中でも芝浦換気所のノズル部分は劣化が特に激しく、コンクリートの剥落だけでなく内部の鉄筋が腐食し消失しているという深刻な状況も確認されています。ノズル部分の劣化が激しい理由は、常時送風されているため上層階からの漏水が広範囲に撒き散らされること、送風により乾燥を繰り返し塩分が濃縮されてしまったためと考えられています。今回の事故のニュース映像では剥落して砕け散ったコンクリートの一部が黄土色に変色しており、塩害による劣化が進行していたことが伺えます。
 なお、今回参照した資料によると、JR東日本では芝浦換気所のノズル部分についての改修についても明記されており、鋼板に置き換える方法とコンクリートを打ち替える方法の2つの案が検討されています。鋼板は軽量で塗装による耐久性も期待できますが、立坑内が狭く搬入が難しいこと、ノズルの形状が変わり、換気性能の低下や異常振動の懸念があることから、元の形状でコンクリートを修復する予定であることが記されています。ただ、その後の進展については資料が見つかっておらず、実際にいつどのような工事が行われたについては不明です。

「若返り工事」も必要か

コロナ禍中の2021年1月20日から開始された首都圏JR各線終電繰り上げに関する告知
コロナ禍中の2021年1月20日から開始された首都圏JR各線終電繰り上げに関する告知。この実績を踏まえ、JR東日本は同年3月の改正から正式に終電時刻を繰り上げたが、今回事故が起きた横須賀線東京~品川間は対象外だった。

 昭和期の「五方面作戦」で作られた国鉄・JRの鉄道インフラは現在一斉に老朽化の時期を迎えていますが、これらの路線は利用者の多さゆえに長時間の運休が許されず、十分な維持管理ができていないのが実情です。昨年発生した東海道線大船駅付近での電化柱の倒壊などもそれを示す一例でしょう。2021年春のダイヤ改正では、保線作業の時間確保を目的に首都圏の主要路線で終電の繰り上げが実施されましたが、今回事故が発生した横須賀線東京~品川間については従来通りに据え置かれていました。
 今回剥落したコンクリート片は合計で113kgもの重量があり、走行中の電車を直撃していた場合乗客乗員に危害が及ぶ恐れもありました。トンネル内では事故が発生した場合の避難や復旧も難しく、営業運転時間中に事故が発生しなかったのは不幸中の幸いと言えます。
 このように施設劣化によるトラブルの多発は過去に他の路線でも発生した例があり、新幹線などでは一定期間、一部時間帯の列車を運休して機能回復を図る「若返り工事」を実施たこともあります。今後は構造物の劣化状況、万一営業運転中に損傷が発生した場合のリスクの度合い、並行する代替路線の有無等も勘案しながら、場合によっては終電や始発時間の変更によるさらなるメンテナンス時間の拡大も必要になるのではないかと思われます。
 公共交通機関の最大の商品は「安全」です。それが守られるよう適切な管理が行われることを期待します。

▼参考
東海道線線増工事誌:東京・品川間 日本国有鉄道東京第一工事局1977年
新しいトンネル二次覆工工法の開発 - JR東日本テクニカルレビューNo.10 2005年冬(PDF)
東京トンネルの変状と対策について - 土木学会関東支部技術研究発表会2004年第31回第4部門講演概要集(PDF)
軽量パネルを用いたシールドトンネルの漏水対策工事 - トンネル工学報告集第18巻2008年11月(PDF)
横須賀線東京・品川間東京トンネル改良工事について - 土木学会関東支部技術研究発表会2008年第32回第4部門講演概要集(PDF)
横須賀線芝浦立坑における塩害によるコンクリート劣化調査および対策 - 土木学会年次学術講演会2018年第73回第6部門講演概要集(PDF/539KB)
東京駅地下水対策 | 事例紹介 | 土木部門(アンカー工法・橋梁) | KTB協会
地盤沈下調査報告 - 東京都建設局
総武トンネル改修工事における取り組み - 新線路 2001年11月号
総武トンネル改良工事の施工 - 日本鉄道施設協会誌2002年3月号
軽量パネルを用いたシールドトンネルの漏水対策 - トンネルと地下 2007年4月号
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