東京メトロ丸ノ内線02系更新車

丸ノ内線02系更新車

東京メトロ丸ノ内線の02系は初期製造の車両がデビューから20年以上が経過したため、2010年より内装・駆動装置のリニューアルを中心とする更新工事が開始されました。この度、この更新車について内外装の調査が完了しましたのでその特徴を見てまいりたいと思います。

■丸ノ内線の概要と車両の変遷

御茶ノ水付近で神田川を渡る丸ノ内線。
御茶ノ水付近で神田川を渡る丸ノ内線。2007年4月1日撮影

 東京メトロ丸ノ内線はJR中央線の荻窪駅から東京都心をU字形に貫いて池袋駅に至る全長24.2kmの「本線」中野坂上駅から分岐して方南町駅に至る全長3.2kmの「分岐線」により構成される地下鉄路線です。丸ノ内線は新宿、銀座、大手町、池袋など東京都心の中でも特に発展している商業エリアを経由しており、平日の朝ラッシュ時の運転間隔は1分50秒となっており、JR中央快速線と並ぶ日本一の過密ダイヤとなっています。
 丸ノ内線の歴史は古く、戦前から一部の区間で建設が開始されました。戦後は銀座~御茶ノ水間の一部でルートを変更して本格的に工事が進められ、1962(昭和37)年までに全線開通を迎えました。建設が古いことから、トンネルはほとんどが道路下の浅い部分を通っていますが、起伏の多い台地部分も通過していることから、地上区間(後楽園~茗荷谷付近など)や国内の地下鉄では初めてシールド工法を使用した区間(国会議事堂前駅付近)も存在します。

丸ノ内線1995年まで使用されていた300形。第1号車は葛西の地下鉄博物館に保存・展示されている。 300形の車内。サーモピンクの壁、グリーンの床は今回取り上げる02系更新車で復活した。
左:丸ノ内線1995年まで使用されていた300形。第1号車は葛西の地下鉄博物館に保存されている。
右:300形の車内。サーモピンクの壁、グリーンの床は今回取り上げる02系更新車で復活した。
2枚とも2006年6月23日撮影

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 開業当初丸ノ内線に導入された300形は電磁直通ブレーキ、カルダン駆動など当時最新鋭の技術をふんだんに取り入れており、加速性能は3.2km/h/s(=0.89m/s2と現在の02系電車と比べても遜色のない破格の高性能車両でした。また、車両の外観は赤色をベースに白色の帯を配し、そこにサインウェーブ(正弦波)状の模様を加えたもので、単色が当たり前だった当時の鉄道車両の中では大変斬新なデザインとして注目されました。その後丸ノ内線では利用者の増加に合わせて300形をベースに形式・仕様の変更を行いながら車両の増備が進められましたが、1988(昭和63)年からは銀座線で導入が進められていた01系をベースにした新型車両02系の導入が開始され、徐々に置き換えが進められました。廃車された300形をはじめとする旧型車両は大半がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの地下鉄に譲渡された他、300形の第1号車(301号車)は東西線葛西駅の高架下にある地下鉄博物館で保存・展示されています。

▼参考
営団丸ノ内線500形の今
→アルゼンチンに渡った丸ノ内線旧型車両の様子

▼関連記事
地下鉄博物館、平日に行きました・・・(2006年6月24日作成)

現在の丸ノ内線の車両である02系。製造年により制御方式などに差がある。 02系の車内。0x系列では標準的なベージュを基調にした色遣いである。
左:現在の丸ノ内線の車両である02系。製造年により制御方式などに差がある。2012年6月2日、四ツ谷駅で撮影
右:02系の車内。0x系列では標準的な白やベージュを基調にした色遣いである。2012年6月23日撮影

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 1988年から導入された02系は1992(平成4)年までに製造された初期車(第1~19編成)とそれ以降に製造された後期車(第20~53編成と分岐線用の第81~86編成)に大別できます。初期車は01系で採用した高周波分巻チョッパ制御(直流モーター)で、加速性能は旧型車両よりも低い3.0km/h/s
(=0.83m/s2※1
となっています。また、当時の営団地下鉄ではトンネル冷房※2を推進していたことから、最初期に製造された一部編成は製造時には冷房を搭載せず後から改造で取り付けが行われています。後期車はIGBT素子を使用したVVVFインバータ制御となり、加速性能も旧型車両と同じ3.2km/h/sに戻されました。
 02系への置き換えは1996(平成8)年で完了し、以後増備・廃車などは一切行われず現在に至ります。2004(平成16)年からは分岐線から順にホームドア(可動式ホーム柵)が導入されることとなり、各編成に自動操縦のためATOを追加する改造が行われました。2009(平成21)年からはこれを利用し、本線を含め全列車がワンマン運転となっています。

▼脚注
※1 中速域以上の加速が向上したことから、減少分は相殺され従来以下の運転時分を確保した。
※2 トンネル自体を冷却し、列車の窓を開けて走行することにより冷房効果を得る方式。その後丸ノ内線のような小型車両でも搭載できる薄型の冷房装置が開発されたため、1998(平成10)年をもって使用を中止し装置は撤去(一部は駅冷房の熱源に転用)された。


■02系更新車

 02系の初期車は一部が製造から20年以上が経過し、搭載している電気機器の老朽化などが懸念されているほか、最新の車両と比べサービスレベルが劣るなどの問題が生じています。このため、2009年度より車両内外の機器類を新車並みにリニューアルする更新工事が開始されました。更新工事の内容は以下のとおりとなっています。

●車両外観のデザインを変更
側面のサインウェーブが復活した02系更新車。



側面のサインウェーブが復活した02系更新車。2012年6月2日、四ツ谷駅で撮影
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※JPEGイメージは圧縮率を上げると赤が激しく劣化して細かい模様の判別が困難になるため、圧縮率を下げています。データ容量にご注意ください。

 車体腰部の帯は従来の直線の白く細い帯を廃し、旧型車両である300形をイメージしたサインウェーブが描かれた。サインウェーブは前面のヘッドライト脇で途切れており、当初前面の帯は赤一色となっていたが、現在はアクセントとして上下に白い帯と「Tokyo Metro」の文字が加えられ、貫通扉部分には斜めのストライプが入っている。これに伴い、フロントガラス左上にあった東京メトロのシンボルマーク(ハートM)は消去された。

●制御方式の変更・ブレーキ装置の構成変更
制御方式はVVVF(PMSM)化された。 台車は従来と変化はない。
左:制御方式はVVVF(PMSM)化された。
右:台車は従来と変化はない。2枚とも2012年6月2日、四ツ谷駅で撮影。

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 省エネルギー化と省メンテナンス化を目的に制御方式は従来の高周波分巻チョッパ制御から永久磁石同期電動機(PMSM)を用いたVVVFインバータ制御に全面的に換装された。これにより加速性能は後期車と同じ3.2km/h/sに向上した。
 PMSM駆動システムは銀座線01系(01-238号車)で試験を行ったものをベースとしており、誘導電動機(IM)と比べ消費電力を約10%低減している。また、PMSMでは回転子に電流が流れないことから発熱が大幅に減少しており、モーターを完全密閉化できることから、騒音低減や分解・清掃が不要になるため省メンテナンス化も実現できる。(実際に乗車したところ、起動・停止時を除きほとんどモーターの音は聞こえなかった。)PMSMはJR東日本のE331系でも採用されているが、歯車減速方式の車両で本格的に採用されたのはこの02系更新車が初のことである。PMSM駆動システムはこの02系の他に千代田線16000系・銀座線1000系でも採用されているが、16000系とは架線電圧・出力が異なるため一部の回路構成が異なっている※3
 また、制御方式の変更に合わせてブレーキ制御装置も全面的に換装されており、従来は別個で搭載されていたブレーキ作用装置と保安ブレーキが一体化された。また、ブレーキ制御は従来の1両単位から1台車単位に変更し、精度向上が図られた。

▼脚注
※3 1モーター・1インバータの構成は同一であるが、02系・1000系では2個のインバータで1個の断流器・フィルタリアクトルを共有する構成となっている。


▼関連記事
東京メトロ千代田線16000系(2012年3月5日作成)
「PMSM」・・・電車用モーターの次のスタンダードとなりうるか?(2012年3月6日作成)

●車内内装のリニューアル
02系更新車の車内。300形のサーモピンクの壁とグリーンの床が再現された。
02系更新車の車内。300形のサーモピンクの壁とグリーンの床が再現された。2012年6月23日、池袋駅で撮影

 車内は旧型車両の300形をイメージし、壁・天井の化粧板は薄いサーモピンク、床は緑1色の敷物に交換された。なお、当初の計画ではドア付近の床面は黄色の識別表示が採用されることになっていたが、現在施工された車両はそのような仕様にはなっていない。また、座席は袖仕切りが大型のものに交換され、中間部分にはスタンションポール(手すり)が追加された。スタンションポールの位置は8人掛けの座席が3-3-2、5人掛けの座席が3-2。(スタンションポールの設置は更新対象外の編成でも行われている。)

●サービス機器のリニューアル
02系更新車のドア上部に設置された液晶ディスプレイ (参考)未更新車ではマップ式の案内表示器と字幕式のLED表示器が交互に設置されている。
左:02系更新車のドア上部に設置された液晶ディスプレイ
右:(参考)未更新車ではマップ式の案内表示器と字幕式のLED表示器が交互に設置されている。
2枚とも2012年6月23日、池袋駅で撮影

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 従来の02系はLEDが埋め込まれた路線図を用いた案内表示器と字幕式のLED表示器をドア上部に交互に配置していた。更新車ではこれをすべて撤去し、新たに17インチワイド液晶ディスプレイ2基をを全てのドア上部に設置した。液晶ディスプレイの表示内容は他の路線と同様右側が次駅・乗り換え路線などの案内、左側が動画広告となっている。また、液晶ディスプレイの下にはドアの開閉時に点滅するドア開閉予告灯(赤色LED)が設置された。さらに、前面の行先表示器が幕式だった第1~12編成についてはLED式への交換が行われている。

●冷房装置の能力向上
 各車両に2機搭載されている冷房装置は容量が16.3kW(14000kcal/h)となっていたが、容量が不足気味だったため、更新車では外形寸法はそのままにコンプレッサの出力アップなどにより容量を23.3kW(20000kcal/h)に向上した新製品に交換した。これに伴い、床下にある電源装置を110kVAのものから160kVAの物に交換した。なお、冷房装置の能力向上は排熱増加によるトンネルの温度上昇の懸念がることから、当面は一部の試験編成以外は出力を制限した状態で運転を行い、問題がないことを確認したうえで他の編成にも拡大させる予定となっている。

東京メトロ丸ノ内線02系更新車発車シーン - YouTube

 この丸ノ内線02系の更新工事は2009年度末に第2編成が竣工したのを皮切りに、年間3編成程度のペースで進められる計画となっています。2010年9月までに竣工した編成は工場作業スペースの関係から床敷物と冷房装置の更新が後回しにされていましたが、現在は全ての更新が一度に実施されています。東京メトロでは営団地下鉄時代より車両寿命を40年とする方針を取っており、今後も02系は時代に合わせてアップグレードをしながら丸ノ内線の主役として君臨し続けることでしょう。

▼参考
全国の地下鉄2008 - 交友社「鉄道ファン」2008年2月号
東京地下鉄02系大規模改修車 - 交友社「鉄道ファン」2010年4月号
編集長敬白: 東京メトロ02系大規模改修工事車輌にサインウエーブ復活。
低騒音と省エネを実現した東京メトロ丸ノ内線車両用PMSM主回路システム - 東芝レビューVol.64 No.9(PDF)
通勤ラッシュ時の冷房能力を向上した車両用空調システム - 東芝レビューVol.64 No.9(PDF)
地下鉄銀座線のいろいろ
→丸ノ内線・銀座線の歴史・特徴など

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