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東急東横線祐天寺駅通過線新設工事(2015・2016年取材)
公開日:2016年07月16日21:42

東急東横線祐天寺駅では、現在優等列車の通過線を新設する工事が行われています。昨年から何度も現地を調査してきましたが、なかなかまとまった形での記事の作成時間が取れず、現在まで掲載することができませんでした。今回は昨年5月、今年1月、6月の3回にわたる調査の内容をまとめてお伝えします。
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東急東横線祐天寺駅通過線新設工事(2014年4月5日取材)(2014年4月23日作成)
■祐天寺駅通過線新設工事の概要
東急東横線
東急東横線は、特急、通勤特急、急行、各駅停車の4つの列車種別により運行されており、渋谷、自由が丘、元住吉、菊名の4つの駅で追い抜きが可能となっています。このうち、渋谷~自由が丘間は7.0kmと他の区間よりも追い抜き可能駅の間が開いており、中目黒駅の乗降客の多さによる停車時間の増大もあって優等列車が前を走る各駅停車に追い付いてしまい、駅の手前で速度を落としたり停車することが常態化しています。
東急東横線は2013年3月より東京メトロ副都心線と相互直通運転を開始しました。さらに2019年からは、日吉駅から新横浜(相鉄・東急直通線)を経由して相模鉄道(相鉄線)とも直通運転を開始する予定になっており、さらに利用者数・列車本数が増えることが見込まれます。これに対応するため、東急電鉄では東横線と副都心線が開始された2013年より渋谷~自由が丘間のほぼ中央にある祐天寺駅に優等列車の通過線を新設する工事を開始しました。

改良工事完成後の祐天寺駅の構造
祐天寺駅の通過線は現在の上下線の線路をそれぞれ高架橋外側に移設し、空いた空間に1本新設されます。通過線は現在発表されている図面によると上り線から直線(減速無し)で進入できる線形となっており、上り列車主体で利用されることが予想されますが、駅の両端には下り線側からも進入可能なポイントが設けられており、場合によっては下り列車も追い抜きができるようになる模様です。
線路の移設は高架橋東側に駅と一体化したビル(図中の黄色)が建っているため、西側を走る上り線をメインに行われます。上り線ホームの中央付近は下り線ホームの同じ部分とに比べて2倍近い幅があるため、上り線のホーム幅を縮小し、現状の用地内で新しい上り線の敷設スペースを捻出します。これだけではスペースが足りないため、下り線側も同様にホーム先端を若干削り、線路を高架橋外側に移設します。渋谷寄りは西側の民有地を買収し、並行する道路を移設して上り線用の新しい高架橋を建設します。一方、横浜寄りは西側・東側ともに住宅や道路が高架橋に密着しており、ホームを外側に移設するスペースが無いことから、この部分のホームは撤去し、代わりに渋谷方にホームを延長して、停止位置を渋谷方面に移動させることになっています。
今回の通過線の設置に合わせて老朽化した駅施設のリニューアルも実施されており、各ホームへの上下エスカレータや、高架下横浜寄りの改札口、改札内のトイレがそれぞれ新設されています。
祐天寺駅通過線新設工事の手順は以下のとおりです。なお、着工当初と比べ一部計画変更された点があります。

祐天寺駅改良工事の手順
●Step1:線路部分の高架橋の拡幅
現在のホーム下で線路部分の高架橋を2線分から3線分に拡幅する。この際、現在の高架橋へ単に継ぎ足しするだけでは強度が不足するため、梁や柱のコンクリートの増し打ちや基礎杭の増設を行う。並行してホームへのエスカレータ設置や高架下への改札口増設を実施。
●Step2:線路を高架橋外側に移設
上下線のホーム先端を削り、線路をそれぞれ拡幅した高架橋の外側に移設する。当初はこのままだと屋根の高さが不足するため、屋根を新しいものに作り替えることになっていたが、着工後に計画を変更し元々あった屋根の支柱を延長してかさ上げし流用した。(詳細後述)
●Step3:通過線敷設・完成
空いた上下線の空間に通過線を敷設して工事は完成。
通過線新設にあたっては高架橋の拡幅を行うため、梁や柱のコンクリートの厚みを増やしたり、基礎杭を増設する工事も行われました。これにより、当駅付近の高架橋は耐震補強も完了する副次的な効果も得られ、安全性がより向上しました。
なお、本事業は副都心線直通開始に伴う渋谷~代官山間地下化や東横線全線の10両編成対応化工事と同様「特定都市鉄道整備事業」の対象となっています。これは2005年3月以降最大10年間に渡り運賃収入の2%を事業費として積み立て、その後の支払いに充当するものです。
■2015・2016年の進捗状況
冒頭でお伝えしたとおり、祐天寺駅については昨年から何度も調査をしていましたが、記事の作成時間が取れず放置となってしまっていました。今回は昨年5月4日(月)、今年1月21日(木)、6月26日(日)の各調査内容を日別にお届けします。
●2015年5月4日取材




左上(1):祐天寺駅横浜方の新改札口
右上(2):横浜方に拡張されたコンコースの様子。暖色系のデザインになっている。
左下(3):コンコース突き当たりのエレベータ乗り場には古い内装が残っていた。
右下(4):新設されたエスカレータ。各ホーム上下1機ずつで全て1人幅。
2014年以降高架橋の拡幅工事が行われてきましたが、駅中央部についてはそれがひと段落したことから、2015年3月29日(日)初電より既存の改札口を一旦閉鎖して横浜方の新設改札口の使用を開始しました。これに伴い、コンコースが横浜方に大幅に拡張され、上下線ホームに通じるエスカレータも使用を開始しました。拡張されたコンコースは床が木目調の模様になっており、照明も電球色のLEDを使用するなど温かみのある雰囲気となっています。現在、祐天寺駅は改札内にトイレが設置されておらず、トイレを利用したい場合東側の高架橋沿いにある公衆トイレへ行く必要があります。今後この拡張されたコンコースを利用して改札内にもトイレが新設されることになっています。
なお、既存の改札口閉鎖に伴い、改札口前の仮設店舗で営業していた東急ストア祐天寺店も一旦完全閉店しました。

拡幅のためコンクリートが増し打ちされた高架橋の梁
高架橋は拡幅のため柱や梁のコンクリートが増量されました。そのため、高架下のコンコースでは天井にそれらが大きく張り出しています。

かさ上げされたホーム屋根。同時に屋根自体が横浜方に少し延長された。(同じ場所の2013年5月6日の様子)
祐天寺駅のホーム屋根はホームの外側に柱があり、そこから斜めに伸びた梁が線路の真上で会合する形状となっています。通過線の設置に伴い上下線を高架橋外側に振ると屋根が低い場所を電車が走行することになってしまうため、何らかの改修が必要でした。当初計画では既存の屋根は全て撤去して曲線アーチ型の屋根を新設することになっていましたが、着工後計画が変更され既存の屋根の支柱の根元を延長して屋根そのものは流用することになりました。2013年5月6日に撮影した写真と比較すると、ホームの屋根がかさ上げされ、電車との距離が少し遠くなっていることがわかるかと思います。この計画変更により、当初と比べ事業費は約2億円、工期は約2.5ヶ月(夜間作業は130日)それぞれ縮減され、沿線への騒音被害低減や重機使用の減少による省エネルギー化が実現しました。屋根のかさ上げに合わせて、屋根自体の長さも横浜方に若干延長されていますが、延長部分の構造は既存の部分と合わせられています。
駅の前後の区間は引き続き新上り線用の高架橋建設が続いていました。また、この頃に下り線渋谷方の線路に通過線へ進入するためのポイントが挿入されました。祐天寺駅の渋谷方は目黒川の低地になっている中目黒駅へ向けて35パーミルの下り勾配となっており、そのままではポイントが挿入できません。そこで、高架橋には直接手を加えずバラストの量を減らし、ポイント設置に必要な最小限の長さの緩勾配区間を作り出すことに成功しています。緩勾配区間を作ったことにより駅手前の縦曲線が短くなってしまいましたが、この区間は最高速度(110km/h)で走行する区間ではないため特に問題はないものと思われます。周辺は住宅地であるため、新設されたポイントは騒音・振動が低減できるノーズ可動式分岐器となっています。(これ以降新設されるポイントも同様)
●2016年1月21日取材
※この先画像が15枚(1.0MB)あります。画像はスクロールに従って自動で読み込まれます。(JavaScriptが有効の場合のみ)データ容量にご注意ください。
左or上(1):手前が11月1日に付け替えられた下り線で、直線だった線路がカーブに変化したのがわかる。
右上or左下(2):下り線ホームは先端が大きく削り取られ、床下の梁も一部取り壊された。
右下(3):停止位置後退に伴い渋谷方に新設されたホーム延長用の床。
右上or左下(2):下り線ホームは先端が大きく削り取られ、床下の梁も一部取り壊された。
右下(3):停止位置後退に伴い渋谷方に新設されたホーム延長用の床。
2015年11月1日(日)からは、下り線のホームが最大2mほどホーム内側へ削り込まれ、線路が駅構内でカーブするよう付け替えられました。削り込まれた量が大きいため、下り線ホームの床下はコンクリートでできた高架橋躯体が一部切り取られています。ホームが削り込まれたことにより、横浜方のホーム端は十分な幅が確保できなくなったため、停止位置が渋谷方へ5m後退し、渋谷方のホーム端は道路上に張り出す形で短い床面が設置されました。


左(1):新上り線の真上に当たる床が仮設になった上り線ホーム
右(2):床下では高架橋躯体に切り目が入れられ、取り壊しが進められていた。
一方、、上り線のホームについてもこの頃から新上り線の線路予定地に相当する部分が仮設の床面に変わり、梁などを取り壊す工事が開始されています。住宅地が近接していることから、高架橋躯体の取り壊しは全てワイヤーソーなどの低騒音型の機材が使用されています。
渋谷方はこの時点でも引き続き高架橋本体の建設が続いており、交差する道路上部の橋桁も架設されていない状態でした。この頃になると上り線にも下り線とほぼ同じ位置にポイントが挿入されました。一方、横浜方はこの時点で高架橋が完成しており、信号機器箱や架線柱なども順次新しい高架橋側に移設されました。

工事が完了した祐天寺駅横浜方と高架下で営業を再開した東急ストア祐天寺店
横浜方の高架下は工事が完了したことから、10月21日(水)に東急ストア祐天寺店がオープン(営業再開)しました。祐天寺駅周辺は横浜方の改札口新設とこの東急ストアのオープンにより人の流れが変ったため、駅前ロータリー以外の場所に飲食店が次々とオープンするなど商業圏の変化も見られます。
●2016年6月26日取材


左(1):新上り線の使用開始準備が整った祐天寺駅。上り線ホームの先端はいつでも取り外せるよう床が木板になっている。
右(2):上り線ホームの真上には新上り線用の架線が張られている。
前回訪問から半年がたち、上り線ホームは新上り線の敷設箇所が全て仮設となり、床下では新上り線の軌道敷設が進められました。6月訪問時には軌道敷設が全て完了済みとなっており、ホームの真上には新上り線用の架線も張られていました。


左(1):上り線ホームは渋谷方に延長される。ホームの先は「優等列車対応通路」が2両分設置。
右(2):渋谷方高架下には駅前ロータリーから交番が移転した。(同じ場所の2013年5月6日の様子)
高架橋本体工事が続いていた渋谷方も工事が完了し、軌道敷設が実施されました。最初にご説明したとおり、上り線は横浜方に拡幅用のスペースがないため、横浜方のホームは一部撤去して渋谷方にホーム全体をずらすことになっています。渋谷方は交差する道路の上にも1両分ほどホームができており、この部分は屋根がなく外側は半透明のアクリル板で覆われています。また、ホームの先には運転見合わせ時に10両編成の列車から降車できるよう非常用ホーム(優等列車対応通路)が設けられています。優等列車対応通路は下り線側でも設置工事が始まっています。
なお、高架下には東側に建つ駅ビル1階から交番が移転しています。(これにより、駅ビルは入居テナントが全て退去したことになりますが、今後の処遇は現在のところ不明です。)


左(1):横浜方の新旧接続点。
右(2):横浜方の下り線に挿入されたポイントは本線側にも角度が付いている。
横浜方は現時点では上り線用のポイントが準備されておらず、ホーム下から延びてきた線路を直接現在線と接続する模様です。一方下り線側には渋谷方と同様通過線から進出する際使用するポイントが挿入されました。このポイントは近づいて見るとわかりますが、本線側にも非常に大きい角度が付いた振分分岐器となっています。角度が大きいため速度制限は無いようですが、高速で通過する優等列車では若干横揺れが出るようになりました。
■今後の予定

上り線ホームの下で使用開始を待つ新上り線の軌道
祐天寺益の今後の予定ですが、明日7月17日(日)初電より新上り線の使用が開始されることになっています。これに伴い、上り列車の停止位置が渋谷方へ約1両分前進します。また、今月31日(日)からは使用を中止していた渋谷方の改札口がリニューアルされ再開するとともに、改札内にトイレが新設されることになっています。使用再開後もしばらくは東側への通り抜けはできません。東側への通行が可能になるのは2年後の2018年度上旬の予定となっています。
新上り線の使用開始後は現在の上り線を通過線に転用するための工事が実施されます。通過線の使用開始は来年3月の予定です。
▼参考
2016年度の鉄軌道事業設備投資計画 車両新造のほかホームドア設置、駅改良工事に総額489億円 |東急線沿線ニュース|東急電鉄
第7回東急グループ環境賞|環境報告書2015|東急電鉄
→ホーム屋根の再利用に関する説明
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